降圧薬と一酸化窒素——
薬の役割と、運動が血管にもたらすもの
悩み:血圧の薬を飲んでいると運動が怖くなる
「降圧薬を服用中に運動してもいいか」
薬局での服薬指導の場面で
非常によく聞かれる質問です。
「血圧が上がったら危険では」
「薬を飲んでいるから
安静にしていた方がいい」
こうした誤解から
運動を避けてしまい
結果として血管の健康が
損なわれているケースを
臨床現場でも多く経験します。
降圧薬と運動の
正しい関係を理解することが
血圧管理において重要です。
現場と自分の経験から
服薬指導の場面で
降圧薬を処方された患者さんの
多くが運動に対して
消極的になっていることを
感じます。
「薬を飲んでいるから
これ以上何かしなくていい」
という認識が
広がっているようです。
しかし降圧薬が担う役割と
運動が担う役割は
根本的に異なります。
競技ボディビルに
取り組んでいる経験からも
継続的なトレーニングが
安静時血圧の安定に
寄与することを
実感しています。
薬と運動は
代替関係ではなく
補完関係にあります。
降圧薬の作用機序と限界
Ca拮抗薬は血管平滑筋の
カルシウムチャネルをブロックし
末梢血管抵抗を低下させます。
ARB・ACE阻害薬は
レニン・アンジオテンシン系を
抑制することで
血管収縮・アルドステロン分泌を
抑え降圧します。
いずれも「血圧の数値を下げ
血管への過剰な負担を
軽減する」機序であり
血管内皮細胞からの
一酸化窒素(NO)産生を
促進する薬理作用は
持ちません。
一酸化窒素(NO)と血管内皮機能
一酸化窒素(NO)は
血管内皮細胞から産生される
重要な血管作動性物質です。
NOは血管平滑筋を弛緩させ
血管拡張・血流増加を
促進します。
また血小板凝集抑制・
動脈硬化抑制にも
関与しており
血管の健康維持において
中心的な役割を担っています。
運動による血流増加が
血管内皮細胞への
せん断応力(シェアストレス)を
増大させ
内皮型一酸化窒素合成酵素
(eNOS)が活性化されます。
これにより
NOの産生が促進され
血管がしなやかに
広がっていきます。
この血管内皮機能の改善は
降圧薬では代替できない
運動固有の効果です。
数字・研究データで裏付ける
運動と血圧・血管の関係について
以下が報告されています。
・定期的な有酸素運動により
収縮期血圧が平均4〜9mmHg低下
・運動習慣のある人は
そうでない人に比べて
心血管疾患リスクが約35%低下
・10分間の中等度歩行でも
血管内皮機能の改善が
確認されている
・降圧薬服用中でも
適度な有酸素運動は安全であり
薬との相乗効果が
期待できる
運動中は一時的に血圧が上昇しますが
適度な有酸素運動の継続により
長期的には安静時血圧が
低下する方向に働きます。
薬で数値を管理しながら
運動でNO産生を促進する。
この両輪が
血管を本当の意味で
守ることにつながります。
今日からできること
今日10分だけ、外を歩く。
激しく運動する必要はありません。
10分間の歩行でも
血管内皮細胞への刺激となり
NO産生が促進されます。
週3〜5回の
中等度有酸素運動
(早歩き・水中歩行等)を
継続することで
血管内皮機能の
持続的な改善が期待できます。
ただし以下の場合は
運動前に医師への相談を
推奨します。
・安静時収縮期血圧が
180mmHg以上の場合
・めまい・動悸・
胸痛などの症状がある場合
・最近薬の種類・量が
変更になった場合
血圧管理・運動習慣についてご不明な点は
お気軽にご相談ください。
───
北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
©2023 TSUNAGARUCRAFT