■ はじめに
筋肉は従来、
運動器官として捉えられてきました。
しかし2000年代以降の研究により
骨格筋が生理活性物質を分泌する
内分泌器官としての機能を持つことが
明らかになっています。
この筋肉由来の生理活性物質が
ミオカイン(myokine)です。
ミオカインの研究は
運動習慣と健康寿命の関係を
分子レベルで説明する
重要な知見として
注目されています。
■ ミオカインとは何か
ミオカインとは
骨格筋の収縮に伴って分泌される
ホルモン・サイトカイン様タンパク質の総称です。
「マイオ(myo)」はギリシャ語で筋、
「カイン(kine)」は動作物質を意味します。
筋収縮が起きると
ミオカインが血流に乗って全身へ運ばれ
脳・脂肪組織・肝臓・骨・血管など
遠隔臓器に作用します。
代表的なミオカインとして
以下が挙げられます。
・IL-6(インターロイキン-6)
→ 脂肪分解促進・血糖コントロール補助
・IGF-1
→ 筋肉の成長・修復促進
・IL-15
→ 筋肥大・脂肪減少への関与
・BDNF(脳由来神経栄養因子)
→ 脳機能・認知機能への良い影響
■ ミオカインが全身にもたらす効果
ミオカインの分泌は
以下の全身的な健康効果と
関連することが報告されています。
【代謝・血糖管理】
IL-6をはじめとするミオカインは
脂肪組織での脂肪分解を促進し
インスリン感受性を改善します。
2型糖尿病・肥満の予防・改善への
関与が示されています。
【抗炎症作用】
運動によるミオカイン分泌は
慢性炎症を抑制する
抗炎症性サイトカインの産生を
促進します。
生活習慣病・動脈硬化・
一部のがんリスク低減との
関連が報告されています。
【脳・認知機能】
BDNFをはじめとするミオカインは
神経新生・シナプス可塑性に関与し
認知機能の維持・改善への
効果が示されています。
【筋肉の維持・成長】
IGF-1・IL-4・IL-15などは
筋細胞の増殖・修復・肥大を促進し
加齢による筋肉量低下
(サルコペニア)の予防に
寄与します。
■ 薬との役割分担
降圧薬・血糖降下薬・
脂質異常症治療薬などは
血圧・血糖・コレステロールという
数値を管理するために
重要な役割を果たします。
ただし、ミオカインを分泌させる
薬理作用を持つ薬は
現時点では存在しません。
ミオカインを産生できるのは
骨格筋の収縮——
すなわち体を動かすことだけです。
薬で数値を管理しながら、
運動でミオカインを分泌させる。
この両輪が
健康寿命延伸の
現実的なアプローチです。
■ ミオカインを増やすための運動
ミオカイン分泌には
激しい運動は必要ありません。
中等度の有酸素運動
(早歩き・水中歩行・自転車等)や
軽度の筋力トレーニングでも
ミオカイン濃度の上昇が
確認されています。
ただし過度の長時間運動や
極端な高負荷では
炎症性サイトカインのバランスが
乱れるリスクもあるため
適切な運動量・頻度の設定が
重要です。
高齢者・基礎疾患のある方には
以下の運動から始めることを推奨します。
・1日15〜30分の早歩き
・椅子からの立ち座り運動
(スロースクワット)10回×2〜3セット
・階段の積極的な活用
日常生活の中で
体を動かす機会を増やすことが
継続可能なミオカイン分泌促進の
最も現実的な方法です。
■ まとめ
筋肉は運動器官であると同時に
全身の健康を守る
内分泌器官でもあります。
ミオカインという観点から見ると
「運動が体にいい」の理由が
分子レベルで説明できます。
薬で体の数値を守りながら、
筋肉を動かして全身の機能を守る。
この両輪を回し続けることが
健康寿命を延ばし
自分らしく過ごせる時間を
増やすことにつながります。
運動習慣の構築・
生活習慣病の予防改善に
ついてご不明な点がある方は
お気軽にご相談ください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
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