はじめに
「最近、階段がきつくなった」「ペットボトルのふたが開けにくくなった」「以前より歩くのが疲れるようになった」。こういった変化を年齢のせいにしていませんか。
これらはサルコペニアのサインである可能性があります。そしてサルコペニアは、年齢だけが原因ではありません。第3回はサルコペニアの正確な理解と、薬剤師の視点からの注意点を整理します。
サルコペニアとは何か
サルコペニアとは、加齢や生活習慣の変化によって筋肉量・筋力・身体機能が低下した状態を指します。ギリシャ語で「筋肉(sarx)」と「喪失(penia)」を組み合わせた言葉で、2010年にEWGSOPという欧州の研究グループが診断基準を策定しました。
筋肉は30代をピークに、何も対策をしなければ年に1〜2%ずつ減少します。70代では若い頃の筋肉量の30〜40%が失われているケースもあります。ただしこの低下速度は、生活習慣によって大きく変わることが重要なポイントです。
一次性と二次性のサルコペニア
サルコペニアには大きく2つの種類があります。
一次性サルコペニア
加齢そのものが主な原因です。ホルモンの変化・神経機能の低下・筋タンパク質の合成能力低下などが関与します。
二次性サルコペニア
運動不足・低栄養・疾患・薬の影響・生活環境の変化などが原因となるものです。二次性の場合は、原因に対処することで改善が期待できます。
日常の中でサルコペニアが進行している方の多くは、この二次性の要素が大きく関与しています。「年だから仕方ない」ではなく「対策できる」という視点の転換が重要です。
転倒・骨折リスクとの関係
サルコペニアが進行すると、日常生活への影響が顕著になります。
筋力が低下すると体のバランスを保つ力が落ち、少しつまずいただけで転倒しやすくなります。高齢者の転倒は、大腿骨骨折(太ももの付け根の骨折)をはじめとした重篤な骨折につながることがあります。大腿骨骨折後の経過は深刻で、その後の寝たきり・要介護状態への移行と深く関連しています。
筋肉が減る→転びやすくなる→骨折する→活動量が落ちる→さらに筋肉が減る。この連鎖を早期に断ち切ることが、健康寿命を守る上で非常に重要です。
診断の基準
サルコペニアの診断には、以下の3つの測定が用いられます。
筋肉量:DXA法(二重エネルギーX線吸収法)や生体インピーダンス法で測定します。
筋力:握力測定が代表的な指標です。男性28kg未満・女性18kg未満が低下の目安とされています(EWGSOP2基準)。
身体機能:歩行速度が広く用いられます。1秒間に0.8m未満(または1.0m未満)が低下の目安です。
これらを医療機関で測定することも可能ですが、日常生活での変化として「握力の低下」「歩行速度の低下」を自覚することが、早期発見のきっかけになります。
薬剤師として伝えたいこと
サルコペニアの原因として運動不足・低栄養が広く知られていますが、服薬している薬が筋肉の減少に関係することがある点は、薬剤師として特に伝えたいことです。
ステロイド薬(副腎皮質ステロイド)は、長期使用によって筋タンパク質の分解を促進し、筋力低下を引き起こすことが知られています。ステロイド筋症と呼ばれ、大量・長期使用で特に注意が必要です。
食欲低下・消化器症状を引き起こす薬は、結果として低栄養状態を招き、筋肉量の低下につながることがあります。
利尿薬などによる電解質バランスの乱れも、筋肉の機能に影響することがあります。
「薬を飲んでいるのに体力が落ちてきた」と感じている場合、服薬の影響が関係している可能性を念頭に置くことが大切です。思い当たることがあれば、処方医に相談することを検討してください。薬と体の状態は切り離して考えることができません。
サルコペニアのセルフチェック
以下の変化に心当たりはありますか。
– 以前より歩くスピードが落ちた
– 階段の上り下りがきつくなった
– ペットボトルのふたが開けにくくなった
– 重い荷物が持てなくなった
– 椅子から立ち上がるときに手が必要になった
一つでも当てはまれば、筋力の低下が始まっているサインです。今からでも対策を始めることで、進行を遅らせることができます。
まとめ
サルコペニアとは、筋肉量・筋力・身体機能の低下であり、年齢だけでなく運動不足・低栄養・薬の影響なども大きく関与します。
– 筋肉は30代から年に1〜2%ずつ減少する
– 二次性サルコペニアは対策で改善が期待できる
– 転倒・骨折・要介護状態への連鎖を早期に断ち切ることが重要
– 服薬中の薬が筋肉の減少に影響することがある
気づいた今が、対策を始める最良のタイミングです。具体的な運動・栄養のアプローチは、第7回・第8回で詳しく解説します。
次回(第4回)は「ロコモとは何か」を解説します。
健康寿命・サルコペニア予防についてご不明な点はお気軽にご相談ください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
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