はじめに
「長い距離を歩くのがつらくなった」「立ち上がるときに膝が痛む」「片足で靴下が履けなくなった」。こういった変化を年齢のせいにしていませんか。
これらはロコモのサインかもしれません。第4回はロコモティブシンドロームの正確な理解と、薬剤師として伝えたい視点を整理します。
ロコモティブシンドロームとは何か
ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは、骨・関節・筋肉・神経などの「運動器」の衰えによって、立つ・歩く・階段を上るといった移動機能が低下した状態を指します。
日本整形外科学会が2007年に提唱した概念で、日本独自の予防医学の考え方として、現在は厚生労働省の健康日本21(第三次)にも位置づけられています。
「運動器」とは、体を動かすために必要なすべての器官の総称です。筋肉だけでなく、骨・関節・軟骨・椎間板・神経もすべて含まれます。これらのいずれかが衰えることで、移動能力が低下していきます。
ロコモが進行する主な原因
ロコモは単一の原因ではなく、複数の運動器の問題が重なって生じます。代表的な原因として以下が挙げられます。
変形性関節症
膝・股関節などの軟骨が磨耗し、痛み・可動域の低下が生じます。特に変形性膝関節症は、中高年女性に多く見られます。
骨粗鬆症
骨密度の低下により骨折しやすくなります。転倒による骨折が、そのままロコモ・要介護状態への移行につながるリスクがあります。
脊柱管狭窄症・椎間板ヘルニア
腰・下肢の痛みやしびれによって、歩行距離が制限されます。
サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)
前回解説した通り、筋力低下は転倒リスクを高め、ロコモを悪化させます。
ロコモはこれらが複合的に関与しており、一つの問題を解決すれば終わりではなく、運動器全体を視野に入れた対策が必要です。
サルコペニアとの違い
前回お伝えしたサルコペニアは「筋肉量・筋力の低下」に焦点を当てた概念です。一方ロコモは、筋肉だけでなく骨・関節・軟骨・神経など運動器全体の衰えを対象にしています。
筋力は維持されていても、関節の痛みで動けなくなるケースがあります。これはサルコペニアの問題ではなく、ロコモの問題です。逆にサルコペニアによる筋力低下がロコモを悪化させることもあります。両者は重複しながら関係しています。詳しくは次回(第5回)で整理します。
放置するとどうなるか
ロコモが進行すると、生活の自由度が段階的に失われていきます。
最初は「長距離が少しきつい」という程度です。そのまま放置すると、近所への買い物がつらくなる→公共交通機関の利用が難しくなる→自宅内の移動でも支障が出る、という順に影響が広がっていきます。
日本整形外科学会の試算では、ロコモの人口は4700万人以上とされており、要支援・要介護状態への移行リスクと深く関連しています。「まだ動けているから大丈夫」という状態のうちに対策を取ることが、健康寿命を守る鍵です。
ロコモのセルフチェック
日本整形外科学会が提唱する「ロコチェック」として、以下の7項目が知られています。
– 片足立ちで靴下が履けない
– 家の中でつまずいたり滑ったりする
– 階段を上るのに手すりが必要
– 横断歩道を青信号で渡りきれない
– 15分くらい続けて歩けない
– 2kg程度の買い物をして持ち帰るのがつらい
– 家の中のやや重い仕事(掃除機・布団の上げ下ろしなど)がつらい
1つでも当てはまればロコモが始まっているサインです。3つ以上当てはまる場合は、より積極的な対策が必要な状態と考えられます。
薬剤師として伝えたいこと
ロコモの背景には、骨粗鬆症・変形性関節症・脊柱管狭窄症などの疾患が関わっていることが多くあります。これらの疾患に対して薬物療法が有効な場合もありますが、薬だけでは進行を完全には止められません。
骨粗鬆症の薬を服用している方は、薬を飲みながら運動・栄養を整えることで、薬の効果を最大限に引き出すことができます。特にカルシウム・ビタミンDの摂取と、骨に適度な負荷をかける運動を組み合わせることが重要です。
また痛みを抑える薬(NSAIDs)を長期的に使用している場合、消化管・腎機能への影響に注意が必要です。痛みのコントロールと並行して、痛みの根本的な原因にアプローチすることが本来の目的です。
薬は体を助ける手段ですが、運動・栄養・生活習慣という土台と組み合わせることで、初めて健康寿命を守ることができます。
まとめ
ロコモティブシンドロームとは、骨・関節・筋肉など運動器全体の衰えによって移動機能が低下した状態です。
– 筋肉だけでなく骨・関節・神経も含めた運動器全体の問題
– 変形性関節症・骨粗鬆症・サルコペニアなどが複合的に関与する
– 放置すると要支援・要介護状態への移行リスクが高まる
– 「まだ動けているから大丈夫」という時期に対策を取ることが重要
– 薬と運動・栄養を組み合わせたアプローチが効果的
次回(第5回)は「フレイル・サルコペニア・ロコモの違いと関係性」を整理します。
健康寿命・ロコモ予防についてご不明な点はお気軽にご相談ください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
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