2026/08/01

HDLコレステロール ——「善玉」が低いと なぜ危険なのかを正しく理解する 【健康診断を読み解くシリーズ・第4回】

はじめに

「HDLって、善玉コレステロールでしょ。高ければいいんじゃないの?」「低いと言われたけど、何が問題なの?」。LDLと比べて、HDLの意味を正確に理解している方は少ないかもしれません。

第4回は「HDLコレステロール」という検査項目を、薬剤師の視点から読み解きます。

この項目は何を見ている?

HDL(High Density Lipoprotein)コレステロールは、全身の余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す役割を担うたんぱく質と脂質の複合体です。「善玉コレステロール」と呼ばれる理由は、血管に蓄積しつつあるコレステロールを取り除く方向に働くからです。

前回解説したLDLが「コレステロールを肝臓から全身に運ぶ」役割であるのに対して、HDLは「全身から余分なコレステロールを肝臓に回収する」役割を担います。血管の中に溜まりかけたコレステロールを肝臓に戻すことで、動脈硬化の進行を抑制する働きがあります。

健康診断でこの数値を測定することで、動脈硬化に対する「防御力」がどのくらいあるかを把握することができます。LDLとHDLは対になる指標であり、どちらか一方だけでなくセットで確認することが重要です。

基準値は?

日本動脈硬化学会のガイドラインによる基準は以下の通りです。

– 基準値:40mg/dL以上
– 低HDLコレステロール血症:40mg/dL未満

HDLは「高いほどよい」というイメージがありますが、極端に高い場合(たとえば100mg/dLを大きく超えるような場合)については、近年の研究でリスクとの関係が単純ではないことが示されています。現時点では40mg/dL以上を維持することが基本的な目標とされています。

男女差については、女性は一般的に男性よりHDLが高い傾向があります。これは女性ホルモン(エストロゲン)がHDLを上昇させる方向に働くためです。閉経後にはエストロゲンが減少するため、HDLが低下しやすくなります。定期的な確認が特に重要な時期です。

低いと何が考えられる?

HDLコレステロールが低い場合に考えられる主な原因として以下が挙げられます。

運動不足
HDLは有酸素運動によって上昇しやすく、運動不足では低下します。生活習慣の中でHDLに最も直接的な影響を与える要因の一つです。

喫煙
喫煙はHDLを低下させる重要な要因であることが広く知られています。禁煙によってHDLが改善することが期待できます。

肥満・内臓脂肪の蓄積
中性脂肪が高くなるとHDLが低下しやすくなるという関係があります。内臓脂肪の蓄積が背景にあることが多いです。

糖質・アルコールの過剰摂取
中性脂肪の上昇を介してHDLが低下します。

遺伝的体質・一部の薬剤
βブロッカーなどの薬剤がHDLに影響することがあります。

HDLが低い状態は、LDLが高い状態と同様に動脈硬化リスクを高めます。LDLが正常範囲でも、HDLが低ければ総合的なリスクは上がります。LDLとHDLはセットで確認することが不可欠です。

なお、HDLは生活習慣の改善によってある程度上昇させることができますが、変動幅はLDLほど大きくない場合が多いです。

関係する病気

HDLコレステロールと深く関わる病気として以下が挙げられます。

脂質異常症
病気を知る【生活習慣病編】第2回で詳しく解説しています。HDL低値は脂質異常症の診断基準の一つです。

動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞
HDL低値は動脈硬化の進行を加速させ、心血管疾患リスクを高めます。

メタボリックシンドローム
HDL低値(男性40mg/dL未満・女性50mg/dL未満)は、メタボリックシンドロームの診断基準の一つです。内臓脂肪蓄積・血圧上昇・血糖異常と重なりやすい状態です。

なお、次回解説する「中性脂肪」とHDLは深く関連しており、中性脂肪が高い方ではHDLが低くなりやすいという関係があります。

よくある誤解

❌「HDLは高ければ高いほどいい」

✅ HDLは40mg/dL以上を維持することが基本です。極端に高い場合の解釈は慎重に

「善玉だから高いほど安心」という考え方がありますが、近年の研究では極端に高いHDLについてはリスクとの関係が単純ではないことが示されています。現時点では「40mg/dL以上を維持する」ことが基本的な目標であり、「できるだけ高くする」ことを過度に追求する必要はありません。数値の総合的な評価は医療機関で行うことが重要です。

薬剤師からのポイント

HDLコレステロールを直接上昇させることを目的とした薬は、現時点では限られています。かつて期待されたHDLを上昇させる薬剤(CETP阻害薬など)の一部は、臨床試験で期待通りの心血管リスク低減効果が得られなかったケースがありました。HDLの数値を上げても、それが心血管リスクの低下に直結するとは限らないことが示されています。

そのためHDLの管理は、現時点では主に生活習慣の改善が中心となります。有酸素運動の習慣・禁煙・適切な体重管理・節酒がHDL上昇に効果的とされています。

一方でHDLが低い背景に中性脂肪の高値がある場合は、中性脂肪を下げる薬剤(フィブラート系薬剤など)が処方されることがあります。「HDLが低いから薬」ではなく、背景にある原因に対してアプローチする形になります。

服薬中の薬がHDLに影響しているケースもあります。数値が低い方は服薬状況も含めて処方医に相談することをお勧めします。

今日のまとめ

– HDLコレステロールは全身の余分なコレステロールを肝臓に回収する「防御役」
– 40mg/dL未満が低HDLコレステロール血症の目安。動脈硬化リスクが高まる
– 運動不足・喫煙・肥満・中性脂肪高値がHDL低下の主な原因
– LDLが正常でもHDLが低ければリスクは上がる。LDLとセットで確認することが重要
– HDLの管理は生活習慣の改善が中心。有酸素運動・禁煙が特に効果的
– HDLを上昇させる薬剤の効果は限定的。背景にある原因へのアプローチが基本

健康診断は、病気を見つけるためだけのものではありません。
自分の体の変化に気づき、健康寿命を守るための大切なヒントです。

Well Labでは、これからも薬剤師の視点で、健康寿命につながる知識をわかりやすくお届けしていきます。

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net

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