はじめに
「肝機能が少し高いと言われたけど、お酒をそんなに飲んでいないのに」「ASTとALTって何が違うの?」。健康診断で肝機能の数値が引っかかっても、何を意味するのかわかりにくいという方が多くいます。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり傷ついても自覚症状がほとんど現れません。だからこそ健診の数値が、肝臓からのSOSを早期に知る重要な手段です。第11回は「AST・ALT・γ-GTP」という検査項目を、薬剤師の視点から読み解きます。
この項目は何を見ている?
AST・ALT・γ-GTPはいずれも肝臓の細胞に含まれる酵素です。
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
肝細胞が傷つくと血液中に漏れ出し数値が上昇します。肝臓だけでなく、心筋・骨格筋・腎臓・赤血球にも含まれているため、肝臓以外の原因で上昇することもあります。
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
ASTと同様に肝細胞が傷つくと上昇しますが、ALTは主に肝臓に多く含まれます。そのためALTの方が肝臓の状態をより特異的に反映します。ASTとALTの比(AST/ALT比)も肝疾患の種類を推測する参考になります。
γ-GTP(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)
肝臓・胆道系の細胞に多く含まれる酵素です。アルコールや薬剤への感受性が特に高く、飲酒・薬剤の影響で選択的に上昇しやすい特徴があります。胆道系(胆管・胆のうなど)の異常でも上昇します。
3つの数値をセットで確認することで、肝臓のどの部分にどのような問題があるかをある程度推測することができます。
基準値は?
一般的な基準値は以下の通りです。健診機関によって若干異なる場合があります。
AST:10〜40U/L程度
ALT:男性10〜42U/L程度・女性7〜23U/L程度(男女差あり)
γ-GTP:男性80U/L以下程度・女性30U/L以下程度(男女差が大きい)
ASTとALTの比(AST/ALT比)が参考になる場合があります。ALTがASTより高い場合は非アルコール性肝疾患、ASTがALTより高い場合はアルコール性肝疾患や肝硬変が疑われることがあります。ただし総合的な判断は医療機関で行うものです。
高いと何が考えられる?
ASTとALTが高い場合に考えられる主な原因
脂肪肝・NAFLD・NASH(非アルコール性):肥満・糖尿病・脂質異常症との関連が深い。病気を知る【生活習慣病編】番外編参照。
アルコール性肝疾患:過度の飲酒による肝細胞の障害。
ウイルス性肝炎:B型・C型肝炎ウイルスによる感染。症状がなくても検査で発見されることがある。
薬剤性肝障害:処方薬だけでなく市販薬・サプリメント・健康食品も原因となることがある。
筋肉疾患:ASTは筋肉にも含まれるため、激しい運動後や筋肉疾患でも上昇することがある。
γ-GTPが単独で高い場合に考えられる主な原因
飲酒の影響・薬剤(睡眠薬・抗てんかん薬など)の影響・胆道系の異常(胆石・胆管炎など)。
3つすべてが高い場合
肝臓全体に広範な障害が起きている可能性があります。肝硬変・肝がんなどが隠れていることもあるため、医療機関への早急な相談が必要です。
関係する病気
AST・ALT・γ-GTPと深く関わる病気として以下が挙げられます。
脂肪肝・NAFLD・NASH
飲酒に関係なく発症する非アルコール性脂肪性肝疾患は、近年増加傾向にあります。病気を知る【生活習慣病編】番外編で詳しく解説しています。
アルコール性肝疾患
過度の飲酒による肝細胞の傷つきです。アルコール性脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変という進行があります。
ウイルス性肝炎
B型・C型肝炎ウイルスによる慢性感染は、症状なく進行し肝硬変・肝がんへのリスクとなります。
薬剤性肝障害
処方薬・市販薬・サプリメントが原因となることがあります。
胆石症・胆管炎・胆のう炎
γ-GTPを中心に上昇します。
肝硬変・肝がん
進行した肝疾患の状態です。早期発見のために定期的な健診が重要です。
よくある誤解
❌「γ-GTPが高いのは、お酒を飲んでいる人だけ」
↓
✅ γ-GTPはお酒を飲まない方でも、薬剤・脂肪肝・胆道系の異常で上昇することがあります
「γ-GTPが高い=飲みすぎ」というイメージが強くありますが、γ-GTPはアルコール以外の原因でも上昇します。飲酒量が少ない・全く飲まないにもかかわらずγ-GTPが高い場合は、脂肪肝・薬剤の影響・胆道系の異常が関与している可能性があります。「お酒を飲んでいないから関係ない」ではなく、数値の変化に注目することが大切です。
薬剤師からのポイント
薬剤師として特に伝えたいのは、市販薬・サプリメントによる薬剤性肝障害です。処方薬だけでなく、市販の鎮痛薬(アセトアミノフェン・NSAIDsなど)・漢方薬・健康食品・プロテイン・ダイエットサプリなども肝障害の原因となることがあります。
「自然のものだから安全」「サプリだから副作用はない」という思い込みは危険です。複数のサプリメントを併用している方や、市販薬を長期的に使用している方が肝機能の数値が高い場合、服薬・サプリとの関係を念頭に置くことが大切です。
また肝機能の数値が上昇している場合、背景にB型・C型肝炎ウイルスの感染が隠れていることがあります。これらは血液検査で確認できますが、健診では自動的に検査されないことが多いです。肝機能の数値が高い方・感染リスクがある方は、一度検査を受けることをお勧めします。
数値が継続して高い場合や急激に上昇している場合は、自己判断だけでなく医療機関への相談が重要です。
今日のまとめ
– ASTとALTは肝細胞が傷ついたときに上昇する酵素。ALTの方が肝臓への特異性が高い
– γ-GTPはアルコール・薬剤・胆道系の異常で特に上昇しやすい酵素
– γ-GTPが高いのは飲酒だけが原因ではない。脂肪肝・薬剤・サプリも原因になる
– 市販薬・サプリメントによる薬剤性肝障害に注意。「自然由来だから安全」ではない
– B型・C型肝炎ウイルスが背景にある場合がある。感染リスクがある方は確認を
– 数値が継続して高い場合や急激に上昇している場合は医療機関への相談が必要
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健康診断は、病気を見つけるためだけのものではありません。
自分の体の変化に気づき、健康寿命を守るための大切なヒントです。
Well Labでは、これからも薬剤師の視点で、健康寿命につながる知識をわかりやすくお届けしていきます。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
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