はじめに
「運動した方がいいのはわかっているけど、どのくらいやればいいの?」。第1章で運動・身体活動・筋力トレーニング・座位行動の基本を整理してきましたが、この疑問を持っている方は多いと思います。
第7回からは第2章「運動量を知る」に入ります。まず「健康のためにどのくらい体を動かせばいいか」という全体像を、最新のガイドラインをもとに整理します。
ガイドラインが示す目安
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(2024年1月公表)では、成人・高齢者に向けて以下の方向性が示されています。
成人(18〜64歳)への推奨
身体活動全体:強度が3メッツ以上の身体活動を、週23メッツ・時以上行うことが目安として示されています。具体的には歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上行うことに相当します。
運動(意図的な活動):強度が3メッツ以上の運動を週4メッツ・時以上行うことが推奨されています。早歩きを週60分程度行うことに相当します。
筋力トレーニング:週2〜3日の実施が推奨されています(第4回参照)。
座位行動:座りっぱなしの時間を減らし、こまめに体を動かすことが推奨されています(第6回参照)。
高齢者(65歳以上)への推奨
強度を問わず、身体活動を週10メッツ・時以上行うことが目安として示されています。また多要素な運動(有酸素運動・筋力トレーニング・バランス運動を組み合わせたもの)が推奨されており、転倒予防の観点からバランス運動が特に強調されています(第17回参照)。
WHO(世界保健機関)の「身体活動と座位行動に関するガイドライン(2020年)」でも、成人に週150〜300分の中等度の有酸素運動、または75〜150分の高強度の有酸素運動(あるいは組み合わせ)が推奨されており、日本のガイドラインとおおむね整合しています。
メッツ(METs)という単位を理解する
メッツとは身体活動の強度を示す単位で、安静時を1メッツとして、その活動が安静時の何倍のエネルギーを消費するかを表します(第3回でも触れています)。
主な活動のメッツ目安として、安静(座位)は1メッツ、普通歩行(時速3km)は約3メッツ、速歩き(時速4〜5km)は約4〜4.5メッツ、自転車(中程度)は約4〜5メッツ、ジョギング(時速7〜8km)は約7メッツが挙げられます。また家事では、掃除機がけが約3〜3.5メッツ、床拭きが約3.5メッツとされており、日常活動でも一定の強度があることがわかります。
「3メッツ以上」の感覚として、少し息が上がる・体が温まる程度が目安です。会話ができる程度の強度が「中等度」の目安の一つになります。
「メッツ・時」は強度×時間の積です。たとえば3メッツの活動を60分(1時間)行うと3メッツ・時、4メッツの活動を60分行うと4メッツ・時になります。
この数字をどう捉えるか
ここで最も重要なのは、これらの数字は「全員が必ず達成すべきノルマ」ではないという点です。
現在の身体活動量が少ない方にとっては、まず「今より少し多く動く」ことが出発点です。ガイドラインの目安に届かなくても、現在より身体活動量が増えることには健康への関連が示されています。
身体活動量と健康リスクの関係は、全くゼロの状態から少し増やすことで最も大きな恩恵があるとも示されています。「完璧にやらなければ意味がない」ではなく「今できることから少しずつ増やす」という視点が大切です。
また持病がある方・体力が低下している方・リハビリ中の方・高齢の方などは、ガイドラインの目安よりも個別の状況に合わせた判断が必要です。
どんな活動を組み合わせればいいか
健康づくりのための身体活動は、以下を組み合わせることが推奨されています。
有酸素運動(第3回):ウォーキング・ジョギング・水泳・サイクリングなど。中等度以上の強度で継続できる運動。心肺機能・血糖・血圧・脂質に関連。
筋力トレーニング(第4回):週2〜3日の実施。筋肉量・筋力の維持・転倒予防・血糖管理に関連。
日常の身体活動(第2回):通勤・家事・買い物など。意図的な運動とは別に、日常の動きの総量も重要。
座位行動の管理(第6回):30分ごとに立ち上がるなど、座り続ける時間を分断する。
これらは「すべてを同時に完璧にやる」ものではなく、自分の生活の中でできるところから取り入れていくものです。
よくある誤解
❌「ガイドラインの数字を達成しなければ、意味がない」
↓
✅ 現在の活動量から少し増やすことにも、健康への関連が示されています
身体活動量と健康リスクの関係は「ゼロか100か」ではなく、活動量が増えるにつれてリスクが緩やかに低下するという関係が示されています。特にほとんど動いていない状態から少し動くことの効果は大きいとされています。ガイドラインの数字は目標の一つではありますが、「届かないからやらない」という判断にはならないことが重要です。
薬剤師・運動指導者として伝えたいこと
「どのくらい動けばいいか」という問いに対して、数字だけで答えるのには限界があります。
服薬中の方・持病がある方は、運動量の目安よりも先に「自分にとって安全な運動は何か」を確認することが重要です。高血圧・糖尿病・心疾患・骨粗しょう症などの疾患がある方は、運動の種類・強度・タイミングによって注意が必要な場合があります。
また運動を始めるにあたって、急に激しい運動から始めることは避け、現在の体力・活動量に合わせた強度から少しずつ増やしていくことが、安全で継続しやすいアプローチです。
今日のまとめ
– 成人の目安は3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上(1日60分以上の歩行相当)
– 意図的な運動は3メッツ以上を週4メッツ・時以上・筋力トレーニングは週2〜3日が推奨
– 高齢者は強度を問わず週10メッツ・時以上・多要素な運動(有酸素+筋力+バランス)が推奨
– これらは「ノルマ」ではなく目安。今の自分より少し増やすことに意味がある
– 持病・服薬がある方は安全な運動の種類・強度を処方医に確認することが重要
– 次回は「1日何歩くらい歩けばいい?」を整理します
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」
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