2026/09/27

座りっぱなしがなぜ問題なのか? 【運動と健康シリーズ・第6回】

はじめに

「仕事中はずっと座っているけど、週末に運動しているから大丈夫」。そう思っている方がいるかもしれません。しかし近年の研究では、長時間座り続けることそのものが、運動習慣とは独立して健康リスクと関連することが示されています。

第6回は「座位行動(座りっぱなし)」について整理します。第1章の締めくくりとして、運動するだけでなく「動かない時間を減らす」という視点を加えます。

座位行動とは?

座位行動とは、座っている・横になっているなど、エネルギー消費量が非常に少ない状態(1.5メッツ以下)での活動のことを指します。デスクワーク・テレビ視聴・スマートフォンの操作・車での移動などがこれに当たります。

第2回で整理した「身体活動」の概念と対比すると、座位行動は身体活動がほぼゼロの状態です。「動いていない時間」の合計が、健康への関連として注目されるようになっています。問題なのは座ること自体ではなく「長時間連続して座り続けること」です。

体の中で何が起きているか

人が長時間座り続けると、主に下肢の大きな筋肉(大腿四頭筋・ハムストリングス・臀筋など)がほとんど使われない状態になります。この状態が続くと以下のことが起きます。

筋ポンプ作用の低下
下肢の筋肉が動くことで血液を心臓に押し戻す「筋ポンプ作用」が、座位では働きにくくなります。血流が滞ることで、血液中のブドウ糖・脂質の代謝に影響が出ます。

リポタンパクリパーゼ(LPL)の活性低下
LPLは血中脂質(特に中性脂肪)を分解する酵素で、筋肉が活動していないと活性が大きく低下することが示されています。長時間の座位が中性脂肪の処理能力に影響すると考えられています。

インスリン感受性への影響
長時間の座位が続くとインスリン感受性が低下する方向に働くことが研究で示されています。食後に血糖値が上がりやすくなるという関連が報告されており、2型糖尿病リスクとも関連することが示されています。

血栓リスク
長時間の座位は下肢の静脈血栓(いわゆるエコノミークラス症候群)リスクとも関連することが知られています。長距離フライトや長時間のデスクワークで注意が必要とされる理由がここにあります。

運動していても座りっぱなしは問題か

これが近年の研究で特に注目されているポイントです。

「週に数回運動習慣がある人でも、日常的に長時間座り続けている場合、そうでない人と比べて死亡リスク・心血管疾患リスクが高い傾向がある」という研究結果が複数報告されています。

つまり「週末に運動するから平日の座りっぱなしは帳消しになる」とは必ずしも言えない可能性があります。厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、座位時間を減らしこまめに体を動かすことが独立した推奨事項として示されています。

これは「運動しなくていい」という意味ではありません。運動は運動で重要であり、座位時間の管理は別の問題として並行して考えることが適切です。

どのくらいの座位時間が問題になるか

研究によって異なりますが、1日8〜10時間以上の座位時間でリスクの上昇が見られるという報告があります。また「連続して座る時間の長さ」も重要で、同じ合計時間でも細かく区切られている方が影響が小さいとされています。

「30分に一度は立ち上がる・軽く動く」ことが推奨されており、2〜3分程度の軽い歩行や立位でも食後の血糖値上昇を抑える効果が示されています(糖尿病診療ガイドライン2024)。

デスクワーク中心の現代の生活では、意識しないと1日10時間以上座っていることも珍しくありません。まず自分の座位時間を把握することが、最初のステップになります。

どんな病気・健康状態と関係するか

座位行動が長いことが関連するリスクとして、以下が報告されています。

2型糖尿病・心血管疾患・一部のがん・死亡リスクの上昇との関連が複数の研究で示されています。精神的健康(うつ・不安)との関連も報告されています。

よくある誤解

❌「座って休んでいるだけだから、体には影響がない」

↓

✅ 長時間連続した座位は、体の代謝・血流に影響することが研究で示されています

「座って休む」こと自体は必要な行動です。しかし長時間連続して動かない状態が続くことは、代謝・血流・インスリン感受性の観点から望ましくない状態と関連することが研究で示されています。「休む」ことと「長時間連続して動かない状態を続ける」ことを区別して考えることが重要です。

薬剤師・運動指導者として伝えたいこと

座位時間を減らすために、特別な運動を始める必要はありません。日常の中で「動きを挟む」ことが基本です。

30分に一度、立ち上がって水を飲みに行く。電話中は立って話す。テレビのCM中に軽くストレッチや歩く。エレベーターより階段を使う。近い距離は歩く。

こうした「日常の小さな動き」を積み重ねることが、座位時間を分断する現実的な方法です。第2回で解説した身体活動の積み重ねという考え方がここでも当てはまります。

薬剤師として付け加えると、長時間の座位が続く環境(デスクワーク・車の運転・入院中など)では、血流の滞りによる血栓リスクにも注意が必要な場合があります。特に血栓リスクが高い薬を服用している方・術後の方は処方医に相談してください。

今日のまとめ

– 座位行動とは1.5メッツ以下のエネルギー消費しかない状態。長時間の連続した座位が問題
– 長時間座り続けると、筋ポンプ作用の低下・脂質代謝酵素(LPL)の活性低下・インスリン感受性の低下が起きる
– 運動習慣があっても、日常の座位時間が長いと独立したリスクと関連することが示されている
– 30分に一度立ち上がるなど、座位を細かく区切ることが推奨されている
– 「座位時間を減らす」と「運動をする」は別の問題として並行して考えることが重要
– 次回から第2章「運動量を知る」に入ります

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」

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