2026/10/17

運動と骨の健康 【運動と健康シリーズ・第13回】

はじめに

「骨粗しょう症は年をとってからの話」「カルシウムさえ摂れば骨は大丈夫」。骨の健康と運動の関係は、見落とされがちなテーマです。

第13回は「運動と骨の健康」の関係を整理します。骨密度の維持において、どのような運動がどのように関わるのかを理解することが、この回の目的です。

運動は骨にどう影響するか

適切な運動は骨密度の維持・向上に関与することが多くの研究で示されています。特に骨に「荷重(体重をかける)」や「衝撃・力学的負荷」を与える運動が、骨の形成を促す方向に働くことが示されています。

骨は「動かさなければ維持できる」静的な組織ではありません。筋肉と同様に適切な刺激を受けることで維持・強化され、使わなければ弱くなる性質を持っています。宇宙飛行士が無重力環境で著しく骨密度が低下することは、荷重刺激が骨に必要であることを示す代表的な例です。

体の中で何が起きているか

骨は常に「骨吸収(古い骨を壊す破骨細胞の働き)」と「骨形成(新しい骨を作る骨芽細胞の働き)」を繰り返しています(骨リモデリング)。このバランスが崩れて骨吸収が優位になると骨密度が低下し、骨粗しょう症につながります。

運動によって骨に力学的な負荷が加わると、骨の中に網の目のように分布する骨細胞(オステオサイト)がその刺激を感知します。これがシグナルとなって骨芽細胞が活性化し、骨形成が促進される方向に働きます。

また第5回で解説した通り、筋肉が収縮するときに骨に対して引っ張る力が加わります。この力学的刺激も骨への適切な荷重として機能します。筋肉量と骨密度が同時に低下しやすい(サルコペニアと骨粗しょう症が合併しやすい)理由の一つがここにあります。

さらに筋肉が分泌するマイオカインの一部が骨代謝に関与することも研究で示されており、運動が筋骨格系全体に連携して影響することが明らかになってきています。

骨に効果的な運動の種類

すべての運動が骨密度に同じように影響するわけではありません。運動の種類によって骨への効果が異なります。

荷重運動(効果が示されている)

ウォーキング・ジョギング・階段の上り下り・ダンス・テニス・バスケットボールなど、体重を支えながら行う運動です。重力に逆らって体重を支えることで骨に縦方向の刺激が加わります。より強い衝撃が加わる運動(ジョギング・跳躍を含む運動)の方が、ウォーキングと比べて骨への刺激が大きいとされています。

筋力トレーニング

筋肉の収縮が骨に力学的刺激を与えます。スクワット・ランジ・デッドリフトのような下肢・体幹を使う種目が骨密度維持に特に関連することが示されています。自重でのスクワットも、継続することで骨への刺激として機能します。

非荷重運動(骨への直接刺激は少ない)

水泳・水中ウォーキング・自転車など、体重が支持されている運動は骨への直接的な刺激が少ないとされています。心肺機能の向上・関節への負担軽減の観点では優れた運動ですが、骨密度維持の観点では荷重運動との組み合わせが推奨されます。

「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」(日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団)でも、ウォーキングや筋力トレーニングなどの荷重運動・バランス運動の組み合わせが推奨されています。

いつから始めるべきか

骨密度は20〜30代でピークを迎え、その後は加齢とともに低下します。特に女性は閉経後にエストロゲンの減少によって骨密度が急激に低下しやすくなります。

若い頃から運動習慣を持ち、骨のピーク密度(最大骨量)を高めておくことが将来の骨粗しょう症リスクを下げる上で重要です。しかし中高年以降に運動を始めた場合でも、骨密度の低下を遅らせる・維持する方向に働くことが研究で示されています。「もう遅い」ということはなく、今から始める意味があります。

どんな状態と関係するか

運動と骨の健康の関わりが特に重要な状況として以下が挙げられます。

骨粗しょう症の予防

若年期から中高年期にかけて、運動習慣を持つことが骨密度維持と関連します。

閉経後の女性

エストロゲン減少による急激な骨密度低下を遅らせる観点から、荷重運動・筋力トレーニングが特に推奨される時期です。

サルコペニアとの合併

筋肉量低下と骨密度低下は同時に進行しやすく、両者に同時にアプローチできる荷重を伴う筋力トレーニングが有効です。

転倒予防との関連

骨密度を維持することと、転倒そのものを防ぐことの両方が骨折予防に重要です。バランス運動・筋力トレーニングは転倒予防においても推奨されています(第17回で詳しく扱います)。

よくある誤解

❌「水泳をしているから、骨の健康も大丈夫」

↓

✅ 水泳は心肺機能・関節保護に優れていますが、骨密度維持の観点では荷重運動との組み合わせが推奨されます

水泳は多くの健康メリットを持つ優れた運動ですが、水中では体重が支えられるため骨への直接的な刺激が少なくなります。水泳を主な運動にしている方は、ウォーキングや自重スクワットなどの荷重運動を組み合わせることで骨密度維持にも関わることができます。「水泳が意味がない」ということではなく、骨の健康という観点から補完的に考えることが重要です。

薬剤師・運動指導者として伝えたいこと

骨粗しょう症の治療薬(ビスホスホネート製剤・デノスマブなど)を服用している方が運動を行うことは、薬の効果を補完する意味で重要です。薬で骨吸収を抑えながら、運動で骨形成を促す力学的刺激を与えるという組み合わせが、骨密度管理において理にかなっています。

ステロイド薬を長期使用している方は骨密度が低下しやすいため(ステロイド性骨粗しょう症)、定期的な骨密度測定と運動習慣の維持が特に重要です。処方医に骨密度管理について確認しておくことをお勧めします。

骨粗しょう症がすでにある方・骨折リスクが高い方は、転倒につながりやすい運動(バランスが不安定なもの・急な方向転換を伴うもの)には注意が必要です。骨への刺激と転倒リスクのバランスを考えた運動選択について主治医・専門家に相談することをお勧めします。

また運動だけでなく、カルシウム(1日700〜800mg)とビタミンD(1日10〜20μg)の摂取が骨密度維持において運動と並んで重要な要素です(「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」)。運動・栄養・必要に応じた薬物療法の組み合わせが骨の健康を支えます(生活習慣病シリーズ第12回参照)。

今日のまとめ

– 骨は適切な力学的刺激(荷重・筋肉の収縮)によって維持・強化される組織

– 荷重運動(ウォーキング・ジョギングなど)と筋力トレーニングが骨密度維持に特に関連する

– 水泳・自転車は骨への直接刺激が少ない。荷重運動との組み合わせが推奨される

– 若い頃からの運動習慣でピーク骨密度を高めることが重要。中高年以降でも取り組む意味がある

– 骨粗しょう症の薬と運動は役割分担として組み合わせることで効果が高まる

– 次回は「運動と認知機能」を整理します

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)

Well Lab — well-lab-kitagawa.net

「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」

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