はじめに
「健康のためには○○を食べるべき」という情報が溢れています。しかし80代の高齢者と20代のアスリートに、同じ食事を勧めることはできません。栄養の基本は共通していても、何をどれくらい必要とするかは、年齢・体の状態・活動量によって大きく変わります。第8回は「栄養も個別化する時代」を整理します。
ベースは共通、プラスアルファを個別化する
ご飯・具沢山の味噌汁・おかずという基本の食卓は、誰にとっても共通の土台です。ただしその上で、「何をどれくらい」が必要かは個人の状態によって変わります。
薬の処方と似た考え方ですが、栄養の場合はより柔軟です。明確な「用量」があるわけではなく、「ベースの食事は共通、プラスアルファを個別化する」というイメージで捉えると実践しやすいと思っています。
高齢者:筋肉維持のために
たんぱく質を積極的に摂る
高齢になると、筋肉を合成する力が低下します。若い頃と同じ量のたんぱく質を摂っても、筋肉に変換される効率が落ちる「同化抵抗性(anabolic resistance)」が生じます。
厚生労働省の食事摂取基準における推奨量は、65歳以上では若い世代より少なく設定されています(男性60g/日、女性50g/日)。ただしこれは「不足しない量」の基準であり、フレイル・サルコペニア予防の観点からは、体重1kgあたり1.0〜1.6g程度を積極的に摂ることが望ましいとする研究が増えています。
筋肉量を維持することは、転倒予防・骨折予防・要介護状態の予防に直結します。具沢山の味噌汁に豆腐・卵・鶏肉を積極的に加え、おかずのたんぱく質源を意識的に充実させることが現実的なアプローチです。
ただし腎機能が低下している方は、高たんぱく食が腎臓に負担をかける場合があります。持病がある方は、主治医の指示に従った上で取り組んでください。
子ども:バランスよく全体的に多く
成長期の子どもは、体のあらゆる部分を作るために、すべての栄養素が必要です。
– 骨を作るカルシウム・ビタミンD
– 筋肉・臓器を作るたんぱく質
– 脳と体のエネルギー源となる炭水化物
– 免疫・成長を支えるビタミン・ミネラル
特定の栄養素だけを強調するのではなく、全体的にバランスよく・かつ十分な量を摂ることが成長期の基本です。この時期に「糖質制限」「脂質制限」を行う必要は基本的にありません。ご飯・具沢山の味噌汁・おかずが揃った食卓を毎日提供することが、最もシンプルで正しい栄養管理です。
運動する人:消費量に合わせて補う
運動量が多い人は、エネルギー消費量が増えます。それに合わせて炭水化物・たんぱく質の必要量も増加します。
たんぱく質については、筋力トレーニングをしている方は体重1kgあたり1.6〜2.0g程度が目安とされており、一般成人の推奨量と比べてかなり多くなります。これを食事だけで補おうとすると現実的に難しい場合があり、プロテインを補助的に活用する選択肢が出てきます。これが前回お伝えした「食事が先、サプリは後」という考え方とつながります。
炭水化物についても、運動量に合わせてご飯の量を調整することが必要です。「糖質を減らした方がいい」という情報を鵜呑みにして運動量の多い日もご飯を控えると、エネルギー不足・筋肉の分解につながることがあります。
薬剤師として伝えたいこと
服薬指導の現場では、同じ疾患であっても一人ひとりに合わせた対応をします。画一的な情報だけでは、その人にとって本当に必要なことを伝えられないからです。
栄養も同じです。「これさえ食べれば健康になれる」という情報は、誰かにとっては正しくても、あなたにとっては正しくない場合があります。年齢・体の状態・活動量・目標を踏まえた上で、「自分には何が必要か」を考える視点を持つことが重要です。
まとめ
栄養の基本はご飯・具沢山の味噌汁・おかずという共通の土台です。ただしその上で、必要な栄養素の種類・量は個人の状態によって変わります。
– 高齢者:推奨量の基準は減るが、筋肉維持には体重×1.0〜1.6gを積極的に摂る(腎機能低下のある方は主治医に確認)
– 子ども:全体的にバランスよく・十分な量を摂る。制限は不要
– 運動する人:炭水化物・たんぱく質を消費量に合わせて増やす
「みんなに同じ」ではなく、自分の状況に合わせて考えること。それが栄養の個別化という考え方です。
次回(第9回・最終回)は「完璧な食事は存在しない」を解説します。
栄養・食事についてご不明な点はお気軽にご相談ください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
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