はじめに
「最近なんだか疲れやすくなった」「歩くのが少し遅くなった」「外出するのが億劫になってきた」「ちょっとした段差でつまずきそうになる」。
これらの変化を「年齢だから仕方ない」と片付けていませんか。あるいは、身近なご家族にそういった変化が見られても、「もう年だから」と見過ごしていませんか。
こうした変化には名前があります。そして、対策が取れる状態です。このシリーズでは、健康寿命を縮める3つの落とし穴であるフレイル・サルコペニア・ロコモについて、薬剤師・運動指導者の視点から整理していきます。
「年齢のせい」で済ませることの危険性
年齢を重ねると体が変化するのは自然なことです。ただし「年齢のせいだから何もできない」と諦めることと、「これは対策できるサインだ」と捉えることでは、その後の経過が大きく変わります。
薬剤師として服薬指導の現場にいると、「もっと早く気づいていれば」と感じる場面に出会うことがあります。体のサインを見逃したまま放置したことで、気づいたときには生活の自由度が大きく下がっていた、というケースです。
早めに気づいて、早めに対策を取る。それだけで健康寿命は変わります。
健康寿命を縮める3つの落とし穴
冒頭で挙げたような変化は、以下の3つのいずれか、あるいは複数が関係している可能性があります。
フレイル
心身全体の虚弱状態を指します。疲れやすさ・活動量の低下・体重減少・歩行速度の低下・握力の低下などが代表的なサインです。健康な状態と要介護状態の「中間の状態」として位置づけられており、適切な対策を取ることで改善が期待できます。
サルコペニア
加齢や活動量の低下・栄養不足などによる筋肉量・筋力の低下を指します。歩行速度の低下・握力の低下・つまずきやすくなるといった変化が現れます。転倒・骨折のリスクと深く関連しています。
ロコモティブシンドローム(ロコモ)
骨・関節・筋肉・神経など運動器の衰えにより、立つ・歩く・階段を上るといった動作が困難になっていく状態です。進行すると要介護・要支援状態に移行するリスクがあります。
これらは別々の問題ではなく、互いに深くつながっています。詳しくは第5回で整理しますが、まずこの3つが健康寿命を縮める主な落とし穴であることを理解しておいてください。
「まだ大丈夫」が一番危ない
これらの状態に共通しているのは、初期段階では自覚しにくいことです。
疲れやすくなっても少し休めば動ける。歩くのが遅くなっても日常生活はできている。外出が減っても家の中では困っていない。こういう状態が続くうちに、じわじわと体の機能が低下していきます。
フレイルは、適切な対策を取れば改善が期待できる状態です。しかし放置すると、要介護状態への移行リスクが高まります。「まだ大丈夫」という感覚が、対策を遅らせる最大の原因になります。
薬だけでは守れない
「最近疲れやすくて」「足が弱くなってきて」という相談を、薬局で受けることがあります。そのたびに感じるのは、これらは薬だけで解決できる問題ではないということです。
筋肉を作るのは食事と運動です。体のバランスを保つのは日々の活動習慣です。人とのつながりを維持するのは生活習慣です。薬・運動・栄養・睡眠を組み合わせて初めて、健康寿命を守ることができます。
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」このメッセージは、フレイル・サルコペニア・ロコモの予防においても、そのまま当てはまります。
このシリーズで扱う内容
全10回のシリーズで、以下を解説していきます。
– 第1回:3つの落とし穴の概要(本回)
– 第2回:フレイルとは何か
– 第3回:サルコペニアとは何か
– 第4回:ロコモとは何か
– 第5回:3つの違いと関係性
– 第6回:放置するとどうなるか
– 第7回:栄養で予防する
– 第8回:運動で予防する
– 第9回:生活習慣で予防する
– 第10回:健康寿命を守るために大切なこと
薬剤師・運動指導者の両方の視点から、予防のための具体的な考え方をお伝えしていきます。
まとめ
「疲れやすい」「歩くのが遅くなった」「外出が減った」「つまずきやすくなった」という変化は、年齢のせいではなく対策できるサインです。
フレイル・サルコペニア・ロコモという3つの状態を早めに知り、早めに動き出すことが、健康寿命を守る最初の一歩です。
次回(第2回)は「フレイルとは何か」を詳しく解説します。
健康寿命・フレイル予防についてご不明な点はお気軽にご相談ください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
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