はじめに
「運動しているのに体力が戻らない」「頑張って動いているのに筋肉がつかない」。こういう方に食事の状況を伺うと、栄養が不足しているケースが多くあります。
運動と栄養は車の両輪です。どちらが欠けても体は変わりません。第7回は、フレイル・サルコペニア・ロコモを予防するための栄養アプローチを整理します。
筋肉は食事から作られる
筋肉の材料は、食事から摂るたんぱく質です。どれだけ運動しても材料が不足していれば筋肉は作られません。
前回お伝えした負のループの中に「食欲が落ちる→筋肉が減る」というステップがありました。逆に言えば、食事を整えることでそのループを断ち切ることができます。栄養はフレイル・サルコペニア・ロコモ予防の根幹です。
たんぱく質:筋肉の材料を毎日補給する
フレイル・サルコペニア予防において最も重要な栄養素がたんぱく質です。
筋肉は毎日少しずつ分解され、新しく合成されることで維持されています。この合成に必要な材料がたんぱく質であり、材料が不足すれば合成が追いつかず筋肉量が低下していきます。
サルコペニア予防の観点からは、体重1kgあたり1.0〜1.6gのたんぱく質を摂ることが望ましいとされています。体重60kgの方であれば1日60〜96g程度が目安です。
高齢になると一度に大量のたんぱく質を摂取しても吸収・利用されにくくなる「同化抵抗性」が生じます。そのため1回の食事でまとめて摂るより、3食に分けて毎食たんぱく質源を摂ることが効果的です。
ご飯・具沢山の味噌汁・おかずという基本の食卓で、おかずに肉・魚・卵・豆腐・納豆を毎食一品加えることが現実的なアプローチです。
エネルギー不足に注意する
たんぱく質と同じくらい重要なのが、十分なエネルギーを摂ることです。
エネルギーが不足すると、体は筋肉を分解してエネルギーとして使い始めます。せっかくたんぱく質を摂っても、エネルギーが足りなければ筋肉の材料ではなくエネルギーとして消費されてしまいます。
「食が細くなってきた」「あまり食べたくない」という方は、エネルギー不足のリスクがあります。ご飯(炭水化物)をしっかり食べることが、たんぱく質を筋肉の材料として守ることにもつながります。
「年を取ったら食べる量が減るのは仕方ない」と諦めず、食欲がないときでも食べやすいものから少量ずつ摂ることを意識してください。
ビタミンD:骨と筋肉を同時に守る
ビタミンDは、カルシウムの吸収を助けて骨を強くするだけでなく、筋肉の機能維持にも関与していることが明らかになっています。ビタミンDが不足すると骨折リスクが高まるだけでなく、筋力の低下・転倒リスクの増加にも関連することが研究で示されています。
ビタミンDは日光を浴びることで皮膚で合成されますが、外出機会が減った高齢者では不足しやすい栄養素です。
食事からの摂取源としては以下が代表的です。
– 脂の乗った魚(鮭・サンマ・サバ・イワシ)
– きのこ類(干ししいたけ・きくらげ・まいたけ)
– 卵(卵黄)
具沢山の味噌汁にきのこを加えることで、毎日コンスタントに補給できます。食事だけでは不足する場合は、ビタミンDのサプリメントを補助的に活用することも選択肢の一つですが、サプリは食事の土台が整った上での補助です。
水分:見落とされがちな重要な栄養
栄養の話で見落とされがちですが、水分不足は筋肉の機能低下・疲労感の増大・血液循環の悪化につながります。
高齢になると口渇感(のどの渇きを感じる感覚)が低下します。「のどが渇いた」と感じたときにはすでに脱水が始まっていることがあり、この点が高齢者の脱水リスクを高めています。
1日の目安は食事からの水分も含めて1.5〜2リットル程度です。一度にたくさん飲むより、コップ一杯をこまめに飲む習慣が大切です。
起床後・食事のたびに・就寝前に一杯飲む習慣をつけるだけで、水分不足を防ぎやすくなります。利尿薬などを服用している方は、特に水分管理に注意が必要です。
薬剤師として伝えたいこと
服薬中の薬が食欲・栄養状態に影響することがあります。食欲を低下させる薬・消化器症状を引き起こす薬・利尿作用がある薬は、低栄養・脱水のリスクを高めることがあります。
「食欲がない」「食事量が減ってきた」という状態が続いている場合、服薬との関係を念頭に置くことが大切です。思い当たることがあれば、処方医に相談することを検討してください。
栄養と薬は切り離して考えることができません。食事という土台の上に、薬の効果は乗っています。
まとめ
フレイル・サルコペニア・ロコモを栄養面から予防するための4つの柱は以下の通りです。
– たんぱく質:体重×1.0〜1.6gを目安に、3食に分けて毎食摂る
– エネルギー:ご飯をしっかり食べてたんぱく質を筋肉の材料として守る
– ビタミンD:魚・きのこを毎日の食事に取り入れる
– 水分:のどが渇く前にこまめに飲む
ご飯・具沢山の味噌汁・おかずという基本の食卓を整えることが、これらすべてへのアプローチになります。
次回(第8回)は「運動で予防する」を解説します。
健康寿命・栄養管理についてご不明な点はお気軽にご相談ください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
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