2026/07/20

高血圧とは何か ——血管にかかり続ける「見えない負担」を正しく理解する 【病気を知る・生活習慣病編・第1回】

はじめに

「血圧が少し高いと言われたけど、自覚症状がないから大丈夫かな」。こういう方が、薬局の服薬指導の現場に多くいます。高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれます。症状がないまま静かに進行し、ある日突然、脳梗塞・心筋梗塞という深刻な状態として現れることがあるからです。

第1回は、高血圧の仕組みを正しく理解することを目的に整理します。

高血圧とは?

血圧とは、心臓が血液を全身に送り出すときに、血管の壁にかかる圧力のことです。この圧力が慢性的に高い状態を「高血圧」と呼びます。

日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室での血圧が収縮期(上)140mmHg以上、または拡張期(下)90mmHg以上が続く場合を高血圧と定義しています。家庭血圧では収縮期135mmHg以上または拡張期85mmHg以上が基準です。

日本人の高血圧のある方は約4300万人とされており、国民病とも言える存在です。治療を受けているにもかかわらず血圧がコントロールされていない方も多く、健康寿命への影響が大きい疾患の一つです。

体の中で何が起こっている?

高血圧の状態を、ホースに例えて考えてみてください。水を高い圧力で流し続けると、ホースの内側が傷みやすくなります。血管も同じです。

高い圧力が血管にかかり続けると、血管の内壁(内皮細胞)が少しずつ傷つきます。傷ついた部分にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)などが入り込み、プラーク(脂質の塊)が形成されます。これが「動脈硬化」の始まりです。

動脈硬化が進むと、血管は本来の柔軟性を失い、硬く・狭くなっていきます。血管が狭くなると、心臓はより強い力で血液を送り出さなければならなくなります。これにより心臓への負担が増大し、心臓自体が肥大化するケースもあります。

高血圧→動脈硬化→さらに血圧が上がりやすくなるという悪循環が、自覚症状のないまま静かに進行します。

なぜ起こる?

高血圧には大きく2種類あります。

二次性高血圧は、腎臓疾患・内分泌疾患など特定の原因によるものです。原因を治療することで血圧が改善する場合があります。

本態性高血圧は、特定の原因が特定できないもので、日本人の高血圧の約90%を占めます。生活習慣・遺伝的体質・加齢などが複合的に関与しています。

本態性高血圧に関わる主なリスク要因として以下が挙げられます。

– 塩分の過剰摂取:ナトリウムが体内の水分量を増加させ、血圧を上昇させる
– 肥満・過体重:心臓への負担増加・インスリン抵抗性との関連
– 運動不足:血管の柔軟性低下・体重増加
– 過度な飲酒:血管収縮・心拍数増加
– 喫煙:血管収縮・内皮細胞への直接的なダメージ
– 慢性的なストレス:交感神経の過活動による血管収縮
– 加齢:血管の弾力性低下
– 遺伝的要因:家族歴がある場合はリスクが高い

これらが単独ではなく複数重なることで、リスクが高まります。

放置するとどうなる?

高血圧を放置することで最も深刻なのは、動脈硬化の進行による臓器への障害です。全身の血管に影響が及ぶため、複数の臓器が同時にダメージを受けることがあります。

脳への影響
脳梗塞・脳出血のリスクが上昇します。血管が詰まる・破れることで、後遺症(麻痺・言語障害など)が残ることがあります。高血圧は脳卒中の最大のリスク因子の一つです。

心臓への影響
冠動脈が狭くなることで狭心症・心筋梗塞のリスクが上昇します。また心臓が高い圧力に抗し続けることで肥大化し、心不全につながることがあります。

腎臓への影響
腎臓は非常に細い血管が多い臓器であり、高血圧の影響を受けやすいです。腎機能の低下が進むと慢性腎臓病(CKD)に移行し、進行すると透析が必要になるケースもあります。

目への影響
網膜の血管が傷つき、高血圧性網膜症が生じます。進行すると視力低下・失明のリスクがあります。

高血圧は「圧力」という形で、全身の血管に静かにダメージを与え続けます。自覚症状がないからこそ、数値で把握し早期に対処することが重要です。

よくある誤解

❌「頭痛がないから血圧は大丈夫」

✅ 高血圧の多くは自覚症状がありません

「血圧が高いと頭が痛くなる」というイメージを持っている方がいますが、実際には高血圧だけで頭痛が起きることは多くありません。血圧が極端に高い高血圧緊急症などを除き、ほとんどの高血圧患者は日常生活で何も症状を感じません。

「症状がないから大丈夫」ではなく「症状がないからこそ、数値で確認することが重要」というのが正しい理解です。定期的な血圧測定と健康診断が、唯一の早期発見手段です。

薬剤師からのポイント

高血圧の治療において「薬を飲む」か「生活習慣を変える」かという二項対立で考える必要はありません。それぞれに役割があります。

生活習慣の改善は、血圧を下げる方向に働きます。減塩・適正体重の維持・運動習慣・節酒・禁煙。これらは確かに有効であり、場合によっては薬なしでコントロールできるケースもあります。

一方で、生活習慣の改善だけでは十分にコントロールできない場合や、すでに動脈硬化が進んでいる場合・心臓や腎臓への影響がある場合は、薬による治療が必要になります。

また薬を服用している方が「薬を飲んでいれば生活習慣は関係ない」と考えることも誤りです。薬は血圧を数値としてコントロールする手段ですが、生活習慣という土台がなければ薬の効果も十分には発揮されません。

薬と生活習慣は対立するものではなく、役割分担です。この視点が、高血圧と正しく向き合う上で最も重要だと考えています。

今日のまとめ

– 高血圧とは、血管にかかる圧力が慢性的に高い状態(140/90mmHg以上)
– 自覚症状がないまま動脈硬化が進行し、脳・心臓・腎臓・目に影響が及ぶ
– 日本人の約90%は本態性高血圧で、生活習慣・遺伝・加齢が複合的に関与する
– 「症状がない=大丈夫」は誤り。定期的な血圧測定と健康診断が早期発見の鍵
– 薬と生活習慣は対立ではなく役割分担。両方を組み合わせることが重要

病気を知ることは、自分の体を知ること。
正しい知識は、健康寿命を守る第一歩です。

Well Labでは、これからも薬剤師の視点で、健康寿命につながる知識をわかりやすくお届けしていきます。

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net

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