2026/08/17

食事と生活習慣病 ——「何を食べるか」より 「食事全体」を見ることが大切 【生活習慣病を予防・改善するシリーズ・第1回】

はじめに

「体に良い食事をしなければ」と思いながら、何から始めればいいかわからない。そういう方は多いと思います。健康情報が溢れている時代だからこそ、「○○を食べれば健康になる」「△△は体に悪い」という単純な情報に振り回されやすくなっています。

このシリーズは、生活習慣病を予防・改善するために「何をすべきか」を一方的に教えるものではありません。生活習慣と健康の関係を正しく知り、「自分の生活ではどうだろう」と考えるきっかけを作ることを目的としています。第1回は「食事と生活習慣病」の関係を整理します。

食事は、生活習慣病とどう関係する?

食事は、高血圧・脂質異常症・糖尿病・慢性腎臓病・骨粗しょう症など、多くの生活習慣病と深く関わっています。ただし「この食品を食べれば病気にならない」「この食品を避ければ健康になる」という単純な関係ではありません。

生活習慣病の発症には、食事だけでなく遺伝・加齢・体質・運動習慣・睡眠・ストレス・環境など多くの要因が複合的に関与しています。食事はその中の重要な一つです。食事の内容・量・バランスが体の状態に影響を与えることは多くの研究で示されており、無視できない要因であることは確かです。ただし「完璧な食事をすれば必ず病気を防げる」という保証はなく、逆に「食事だけで病気が決まる」わけでもありません。

なぜ関係するのか

食事は、体を構成する材料であり、エネルギーの源です。毎日摂取する食事が、血糖値・血圧・血中脂質・体重・腸内環境・炎症の状態などに継続的に影響を与えます。

食塩の過剰摂取
ナトリウムが体内の水分量を増やすことで、血圧を上昇させる方向に働きます。長期的な高食塩摂取は高血圧・心血管疾患・胃がんのリスクと関連することが示されています。

糖質・エネルギーの過剰摂取
血糖値の上昇・中性脂肪の蓄積・体重増加につながりやすくなります。特に果糖(果物・清涼飲料水など)は肝臓での中性脂肪合成を促進するとされています。

脂質の種類と量
飽和脂肪酸の過剰摂取はLDLコレステロールの上昇と関連します。トランス脂肪酸も脂質異常症の観点から注意が必要です。一方で不飽和脂肪酸(魚の脂・植物油など)は心血管疾患リスクとの関連が研究されています。

食物繊維
食後の血糖値急上昇の緩和・腸内環境の改善・LDLコレステロールの低下・心血管疾患リスクの低下との関連が示されています。

たんぱく質
体の材料として重要です。高齢者ではフレイル・サルコペニア予防の観点からも十分な摂取が求められます。ただし腎機能が低下している方は過剰摂取に注意が必要な場合があります。

これらの関係は「絶対的なもの」ではなく、個人差・体質・食事全体のバランスによって影響の度合いが異なります。

ガイドラインではどう考えられているか

日本人の食事摂取基準(2025年版)および各診療ガイドラインでは、以下のような方向性が示されています。

食塩
発症予防の目標量は成人男性7.5g/日未満・女性6.5g/日未満(食事摂取基準2025年版)。高血圧の管理・治療中の方はより低い目標(6g/日未満)が推奨されています(高血圧管理・治療ガイドライン2025)。ただし令和5年の国民健康・栄養調査では日本人の平均食塩摂取量は男性10.7g・女性9.1gと、目標量を大幅に上回っています。

脂質
飽和脂肪酸の目標量は総エネルギーの7%以下(食事摂取基準2025年版)。脂質全体を制限するのではなく、種類と量のバランスが重要です。

食物繊維
目標量は成人男性21g以上・女性18g以上(食事摂取基準2025年版)。日本人の平均摂取量はこれを下回っており、野菜・豆類・きのこ・海藻などから積極的に摂ることが求められています。

糖質・炭水化物
エネルギー産生栄養素バランスとして、炭水化物は総エネルギーの50〜65%が目安とされています。「糖質ゼロ」「炭水化物抜き」が健康に良いという単純な話ではなく、全体のエネルギーバランスの中での適切な摂取が重要です。

たんぱく質
成人では体重1kgあたり0.8g以上が推奨量の目安ですが、高齢者や運動習慣がある方では必要量が異なります。腎機能が低下している方は主治医・管理栄養士の指示に従った管理が必要です。

どんな病気・健康状態と関係する?

食事と深く関わる生活習慣病として以下が挙げられます。

高血圧:食塩・カリウムの摂取量との関連が特に強い。
脂質異常症:飽和脂肪酸・トランス脂肪酸・食物繊維の摂取量と関連。
糖尿病:糖質・エネルギー摂取量・食物繊維との関連。
高尿酸血症・痛風:プリン体・アルコール・果糖の摂取との関連。
慢性腎臓病(CKD):食塩・たんぱく質・カリウム・リンの管理が必要。
骨粗しょう症:カルシウム・ビタミンD・たんぱく質の摂取との関連。

よくある誤解

❌「食事に気をつけていれば、生活習慣病にはならない」

✅ 食事は重要な要因の一つですが、生活習慣病には遺伝・体質・加齢なども深く関与します

食事に十分気をつけていても、遺伝的体質によって高血圧・高コレステロールになる方がいます。逆に食事が乱れていても発症しない方もいます。食事の改善は重要なアプローチですが、「完璧な食事をしなければ病気になる」というプレッシャーを感じすぎる必要はありません。できることから少しずつ整えていく視点が、長期的な継続につながります。

薬剤師からのポイント

薬で血圧・血糖・コレステロールをコントロールしている方が「薬を飲んでいるから食事は関係ない」と考えることは誤りです。食事という生活習慣の土台が整っていることで、薬が本来の力を発揮しやすくなります。

一方で「食事を改善すれば薬はいらない」という考え方も、すべての方に当てはまるわけではありません。遺伝的体質・病気の進行度によっては、生活習慣の改善だけでは不十分な場合があります。生活習慣の改善と薬物療法は対立するものではなく、それぞれ役割があります。

また腎機能が低下している方や透析中の方は、一般的な「健康に良い食事」がそのまま当てはまらない場合があります。たんぱく質・カリウム・リンなどの制限が必要なケースがあるため、主治医・管理栄養士の指導のもとで個別に食事管理を行うことが重要です。

今日のまとめ

– 食事は生活習慣病と深く関わるが、食事だけで病気が決まるわけではない
– 食塩・脂質・糖質・食物繊維・たんぱく質はそれぞれ異なる形で健康に影響する
– 「○○を食べれば健康になる」という単純な話ではなく、食事全体のバランスと長期的な継続が重要
– 薬と食事はどちらか一方ではなく、それぞれ役割分担として組み合わせることが大切
– 腎機能が低下している方などは個別の食事管理が必要。主治医・管理栄養士に相談を

すべてを一度に変える必要はありません。まずは自分の食生活を知り、できることから考えてみてください。

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」

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