はじめに
「コレステロールが高いのは、脂っこいものを食べすぎているから」「食事に気をつけているのに、なぜ数値が下がらないの?」。脂質異常症と生活習慣の関係は、よく誤解されているテーマの一つです。
第8回は「脂質異常症と生活習慣」の関係を整理します。このシリーズの第1〜6回で取り上げた生活習慣が、脂質異常症という疾患とどう関わるのかをまとめます。
脂質異常症と生活習慣は、どう関係する?
脂質異常症(LDLコレステロール高値・HDLコレステロール低値・中性脂肪高値)の発症には、食事・運動・体重・飲酒・喫煙などの生活習慣が関与しています。しかしその影響の程度は、個人の遺伝的体質によって大きく異なります。
重要なのは「血液中のコレステロールの多くは体内(主に肝臓)で合成されており、食事からの影響だけで決まるわけではない」という点です。食事に気をつけていても数値が高い方は遺伝的な体質が関与している可能性があり、逆に食事が乱れていても正常値の方もいます。脂質異常症の管理においても、生活習慣の改善は重要なアプローチの一つですが、「食事を変えれば必ず下がる」という単純な話ではありません。
なぜ生活習慣が関係するのか
食事内容(飽和脂肪酸・食物繊維・コレステロール)
飽和脂肪酸(肉の脂身・バター・クリーム・菓子類・揚げ物など)の過剰摂取は、LDLコレステロールの上昇と関連します(日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版)。一方、食物繊維は腸でのコレステロール吸収を抑える方向に働き、LDL低下との関連が示されています。
糖質・アルコールの過剰摂取
糖質やアルコールの過剰摂取は、肝臓での中性脂肪合成を促進します。「脂質を控えているのに中性脂肪が高い」という方は、糖質・アルコールの摂取量を振り返ることが重要です。特に果糖(清涼飲料水・果汁飲料・お菓子など)の過剰摂取も中性脂肪上昇と関連することが知られています(第5回参照)。
運動不足
有酸素運動はHDLコレステロール(善玉)の上昇・中性脂肪の低下と関連することが示されています(第2回参照)。HDLが低い方では、運動習慣の見直しが特に重要になります。
体重・内臓脂肪
内臓脂肪の蓄積はLDL上昇・HDL低下・中性脂肪上昇の3つすべてに関与します(第4回参照)。
喫煙
喫煙はHDLコレステロールを低下させることが知られています(第6回参照)。禁煙はHDL改善においても重要なアプローチです。
ガイドラインではどう考えられているか
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」では、生活習慣の改善が脂質異常症管理の基本として位置づけられています。
食事について
過食を避けてエネルギー摂取量を適切に保つこと・飽和脂肪酸の摂取を減らすこと・食物繊維の摂取を増やすことが推奨されています。また日本動脈硬化学会は「The Japan Diet(動脈硬化予防のための日本食パターン)」を推奨しており、魚・大豆製品・野菜・海藻・きのこ・未精製穀物を多く含む日本食パターンが脂質管理に有効とされています(2024年)。
中性脂肪が高い方へ
糖質・アルコールの制限が特に有効とされています。飲酒を制限することで中性脂肪が改善するケースは多くあります。
HDLが低い方へ
有酸素運動・禁煙がHDL上昇に効果的とされています。現時点でHDLを直接上昇させる薬は限られており、生活習慣の改善が中心的なアプローチです(健診シリーズ第4回参照)。
管理目標値について
脂質異常症の管理目標値は一律ではなく、個人の心血管疾患リスク(高血圧・糖尿病・喫煙・年齢・性別・既往歴など)に基づいて設定されます。リスクが高い方ほど、より厳しいLDLの管理目標が設定されます。LDL 140mg/dL以上だから必ず薬が必要というわけではなく、また正常範囲内だから完全に安心というわけでもありません。数値だけでなく、総合的なリスク評価が重要です。
どんな影響と関係する?
脂質異常症の管理において生活習慣が特に重要な状況として以下が挙げられます。
境界域・軽度の脂質異常症の段階
まだ薬を必要としない段階では、まず生活習慣の改善が基本のアプローチです。3〜6ヶ月の生活習慣改善の後に再評価することが多いです。
薬物療法との組み合わせ
スタチン系薬剤などを服用していても、生活習慣の改善によって薬の効果を最大限に活かすことができます。薬で数値がコントロールされていても、生活習慣の土台が重要です。
中性脂肪高値・HDL低値への対応
LDLは薬でコントロールしやすい一方、中性脂肪・HDLは生活習慣の影響を受けやすい指標です。この領域では特に生活習慣の見直しが効果的です。
よくある誤解
❌「コレステロールが高いのは、食べすぎているから」
↓
✅ 血液中のコレステロールは体内合成の影響も大きく、食事だけでは決まりません
血液中のコレステロールの多くは肝臓で合成されており、食事からの影響は全体の一部に過ぎません。体質(遺伝的要因)によって合成量が多い方は、食事に気をつけていても値が高くなることがあります。家族性高コレステロール血症(遺伝性)の方では、生活習慣とは独立してLDLが著しく高くなります。「食事が悪いから」と自分を責えず、まず自分の体質と生活習慣の両面から考えることが大切です。食事の改善は重要ですが、それだけで十分にコントロールできない場合に薬が必要になる理由がここにあります。
薬剤師からのポイント
スタチン系薬剤(コレステロールを下げる薬)を服用している方から「数値が下がったから薬をやめたい」という相談を受けることがあります。しかし薬をやめると数値が元に戻ることがほとんどです。特にリスクが高い方(心筋梗塞・脳梗塞の既往がある・糖尿病・高血圧を合併している方など)は、数値が安定していても薬の継続が必要な場合があります。「数値が下がった=治った」ではなく「コントロールされている状態を維持している」という理解が正確です。
スタチン系薬剤の副作用として、まれに筋肉への影響(筋肉痛・だるさ・脱力感)が報告されています。運動中や運動後に異常な筋肉の症状がある場合は、自己判断でやめるのではなく処方医に相談してください。また一部のスタチン系薬剤はグレープフルーツとの相互作用があります。グレープフルーツを日常的に食べる習慣がある方は処方医に確認してください。
薬と生活習慣はそれぞれ役割があります。薬で数値をコントロールしながら、食事・運動・禁煙という生活習慣の土台を整えることが、脂質異常症と向き合う正しいアプローチです。
今日のまとめ
– 脂質異常症は食事だけでなく、運動・体重・飲酒・喫煙・遺伝的体質が複合的に関与する
– 血液中のコレステロールは体内合成の影響も大きく、食事だけでは決まらない
– LDL高値には飽和脂肪酸・食物繊維が、中性脂肪高値には糖質・アルコールが、HDL低値には運動・禁煙が特に関連する
– 管理目標値は個人のリスクによって異なる。数値だけで判断せず総合的な評価が必要
– スタチン系薬剤は自己判断で中止せず、筋肉症状が出たら処方医に相談する
すべてを一度に変える必要はありません。まずは自分の脂質の数値と生活習慣を振り返り、できることから考えてみてください。
───
北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」
©2023 TSUNAGARUCRAFT