2026/09/11

糖尿病と生活習慣 ——「血糖値は食事だけの問題」ではなく 24時間全体で考える話 【生活習慣病を予防・改善するシリーズ・第9回】

はじめに

「糖尿病は甘いものを食べすぎた人がなる病気」「炭水化物を抜けば血糖値は下がる」。糖尿病と生活習慣の関係は、単純化された情報が特に多いテーマです。

第9回は「糖尿病と生活習慣」の関係を整理します。日本糖尿病学会が2024年に改訂した最新のガイドラインも踏まえてお伝えします。

糖尿病と生活習慣は、どう関係する?

2型糖尿病の発症には、遺伝的体質・加齢・インスリン分泌能力の個人差など変えられない要因と、食事・運動・体重・睡眠・喫煙などの生活習慣という変えられる要因が複合的に関与しています。

重要なのは「血糖管理は食事だけの問題ではない」という点です。「糖尿病診療ガイドライン2024」(日本糖尿病学会、2024年5月公表)では、身体活動・座位時間・睡眠を含む「24時間全体の生活習慣」が血糖管理に関わることが強調されています。食事・運動・睡眠・体重、これらすべてが血糖という一つの指標に影響します。

なぜ生活習慣が関係するのか

食事(エネルギー量・食事パターン・食物繊維)
過剰なエネルギー摂取は、血糖値の上昇・体重増加・インスリン抵抗性の悪化と関連します。「糖尿病診療ガイドライン2024」では、エネルギー制限食による体重管理・血糖改善が引き続き推奨されています。

炭水化物制限については、短期的な血糖改善効果は一定程度認められるものの、長期的な有効性・安全性のエビデンスが不十分とされており、画一的な推奨はされていません。

食物繊維については、血糖値の急激な上昇を緩やかにする効果があり、積極的な摂取が推奨されています(第1回参照)。

運動・身体活動と座位時間
運動は筋肉によるブドウ糖の消費を促し、インスリン感受性を改善する方向に働きます。有酸素運動・筋力トレーニングの両方が推奨されています(第2回参照)。

「糖尿病診療ガイドライン2024」で特に新たに強調されたのは、座り続けること(座位時間)のリスクです。長時間の座位は、運動習慣とは独立して血糖コントロールに悪影響を及ぼすことが示されています。30分ごとに3分程度の軽い活動(歩行・立位)を挟むことで食後の血糖値が改善することも研究で示されており、日常的な行動の積み重ねが重要です。

体重管理
過体重・肥満(特に内臓脂肪の蓄積)はインスリン抵抗性を高め、血糖管理を難しくします。体重の5〜10%の減量でも血糖コントロールの改善が期待できることが示されています(第4回参照)。

睡眠
睡眠不足はインスリン抵抗性を高め、食欲増進ホルモンの変化を介して過食・体重増加とも関連します(第3回参照)。「糖尿病診療ガイドライン2024」でも24時間の生活習慣の中に睡眠が含まれており、睡眠の質・量が血糖管理に関わることが示されています。

喫煙
喫煙は2型糖尿病の発症リスクを高めることが示されており、糖尿病がある方の合併症(心血管疾患・腎症など)のリスクをさらに高めます(第6回参照)。禁煙は糖尿病管理においても推奨されます。

ガイドラインではどう考えられているか

「糖尿病診療ガイドライン2024」(日本糖尿病学会)の主な方向性は以下の通りです。

食事療法
エネルギー制限食により体重コントロールを行い、血糖改善を目指すことが基本とされています。特に過体重・肥満がある2型糖尿病の方には食事の見直しがより重要とされています。炭水化物制限については長期的な有効性・安全性が不十分として画一的な推奨はされていません。食物繊維の積極的な摂取は推奨されています。

運動療法
有酸素運動と筋力トレーニングの実施が推奨されており、座位時間を減らして身体活動量の総量を増やすことが新たに強調されました。現在の身体活動量・座位時間を評価し、身体活動ガイドラインを満たしていない方は現在より増やすことが求められています。

血糖コントロールの目標
HbA1c 7.0%未満が多くの場合の目標とされていますが、年齢・合併症・低血糖リスクによって個別に設定されます。高齢の方や低血糖リスクが高い方では目標が緩やかに設定されることがあります。

どんな影響と関係する?

生活習慣の改善が特に重要な状況として以下が挙げられます。

糖尿病予備群・境界型の段階
正常高値血糖・境界型の段階での生活習慣改善は、糖尿病への移行を予防・遅らせることが期待できます。この段階が最も予防的に重要であり、薬を使わずに取り組める期間です。

薬物療法との組み合わせ
血糖を下げる薬を服用していても、生活習慣の改善が薬の効果を支える土台になります。生活習慣が乱れると薬の効果が十分に発揮されにくくなることがあります。

合併症の予防
血糖コントロールが不十分な期間が長く続くほど、糖尿病三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)や心血管疾患のリスクが高まります。生活習慣の改善は合併症予防においても重要な役割を持ちます。

よくある誤解

❌「炭水化物(糖質)を抜けば、糖尿病は改善する」

✅ 炭水化物の極端な制限は、長期的な有効性・安全性のエビデンスが不十分です

「糖尿病=糖質を抜く」という考え方が広まっていますが、「糖尿病診療ガイドライン2024」では極端な炭水化物制限の長期的な有効性・安全性は不十分とされています。炭水化物は体と脳の重要なエネルギー源であり、完全に排除することで筋肉の分解・栄養の偏りが生じる可能性があります。エネルギー全体のバランスを整えること・食物繊維を増やすことが基本的な方向性です。個人の状況に応じた目標設定が重要であり、管理栄養士・主治医と相談することをお勧めします。

薬剤師からのポイント

糖尿病治療薬を服用している方は、低血糖への備えが特に重要です。インスリン・一部の経口血糖降下薬(スルホニルウレア薬など)は、食事量の変化・運動・飲酒によって低血糖を引き起こすリスクがあります。

「今日は食欲がない」「いつもより多く運動した」「お酒を飲んだ」という日は低血糖が起きやすいです。めまい・冷や汗・動悸・手の震えなどの症状が出た場合の対処法(ブドウ糖・砂糖の携帯など)を事前に確認しておくことが大切です。

発熱・下痢・嘔吐などで食事が取れない日(シックデイ)の薬の対処については、処方医に事前に確認しておくことをお勧めします。

近年、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬など新しい糖尿病治療薬が普及しています。これらは血糖を下げるだけでなく、心臓・腎臓を保護する効果が確認されているものがあり、個人のリスクに合わせた薬剤選択が行われています。薬の種類・特性を理解した上で、生活習慣との組み合わせが重要です。

今日のまとめ

– 糖尿病と生活習慣の関係は食事だけでなく、運動・座位時間・睡眠・体重・喫煙が複合的に関与する
– 「糖尿病診療ガイドライン2024」では24時間全体の身体活動・座位時間の管理が新たに強調された
– 炭水化物の極端な制限は長期的な有効性・安全性が不十分。食物繊維の摂取増加が推奨される
– 体重の5〜10%の減量でも血糖コントロールの改善が期待できる
– インスリン・一部の経口薬を服用中の方は低血糖への備えとシックデイ対応を事前に確認しておく

すべてを一度に変える必要はありません。まずは自分の24時間の生活習慣を振り返り、できることから考えてみてください。

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」

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