2026/09/19

有酸素運動とは? 【運動と健康シリーズ・第3回】

はじめに

「有酸素運動がいい」とよく聞くけれど、そもそも有酸素運動とは何なのか、なぜ体にいいと言われるのかを正確に理解している方は少ないかもしれません。

第3回は「有酸素運動」について整理します。

有酸素運動とは?

有酸素運動とは、酸素を使ってエネルギーを産生しながら行う、比較的長時間継続できる運動のことです。ウォーキング・ジョギング・水泳・サイクリング・エアロビクス・ダンスなどがこれに当たります。

「有酸素」という言葉は、エネルギーを作る仕組みに由来します。体を動かすエネルギーは、糖質や脂質を「燃料」として産生されますが、このとき酸素を使う経路を「有酸素系(酸化的リン酸化)」と呼びます。比較的ゆっくりしたペースで継続できる運動がこれに当たります。

一方、短時間で強い力を発揮する運動(短距離走・重いものを持ち上げるなど)では、酸素を使わない「無酸素系(解糖系)」のエネルギー産生が主体になります。実際の運動では両方のエネルギー系が混在しており、「完全に有酸素」「完全に無酸素」という境界は明確ではありません。

体の中で何が起きているか

有酸素運動中は、筋肉が継続的に収縮するために酸素を必要とします。そのために以下の反応が起きます。

心臓がより多くの血液を送り出す(心拍数の上昇・1回拍出量の増加)。呼吸数が増えて、より多くの酸素を取り込む。血液が活動中の筋肉に優先的に送られる。体温が上昇し、発汗が始まる。

エネルギー源について、運動初期は主に糖質(グリコーゲン・血中グルコース)が使われ、継続するにつれて脂質も使われるようになります。「20分以上続けないと脂肪が燃えない」という説明を聞いたことがある方もいると思いますが、実際には開始直後から脂質も使われています。ただし長時間の有酸素運動では脂質の利用割合が高まることは事実です。

継続的な有酸素運動によって心肺機能が向上します。心臓のポンプ機能が改善し、1回の拍動で送り出せる血液量(1回拍出量)が増えます。これにより安静時の心拍数が下がり、体がより効率よく酸素を利用できるようになります。

なぜ健康に関係するのか

有酸素運動と健康との関連は多くの研究で示されています(厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」)。

血圧への影響
定期的な有酸素運動は血管の柔軟性を高め、収縮期血圧を下げる方向に働くことが示されています。中等度の有酸素運動で収縮期血圧が5〜8mmHg程度低下するという報告があります。高血圧の管理においても、有酸素運動は生活習慣改善として推奨されています(生活習慣病シリーズ第7回参照)。

血糖・インスリン感受性への影響
運動中は筋肉がブドウ糖をエネルギーとして消費するため、血糖値が下がる方向に働きます。継続的な有酸素運動はインスリン感受性の改善とも関連することが示されています(生活習慣病シリーズ第9回参照)。

脂質への影響
有酸素運動はHDLコレステロールの上昇・中性脂肪の低下と関連することが示されています(生活習慣病シリーズ第8回参照)。

心肺機能・体力(最大酸素摂取量)
最大酸素摂取量(VO₂max)は心肺持久力の指標です。これが高いほど全死亡リスクが低いことが複数の研究で示されており、体力を維持することが長期的な健康寿命と関わることが示されています(第15回で詳しく扱います)。

どのくらいの強度で行うか

有酸素運動の強度は「自分がどのくらいきついと感じるか」で大まかに把握できます。

中等度(3〜6メッツ程度):少し息が上がる・会話ができる程度。速歩き・軽いジョギング・水中歩行など。高強度(6メッツ以上):息が上がって会話が難しい程度。ランニング・水泳(クロール)など。

健康づくりのための有酸素運動は、中等度の強度が基本です。「きつすぎず・楽すぎず」が目安の一つです。ただし個人の体力・健康状態によって適切な強度は異なります。

よくある誤解

❌「有酸素運動は20分以上やらないと意味がない」

✅ 短時間の有酸素運動でも健康への関連は示されています

「20分未満の運動は意味がない」という考え方がありますが、厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、短い時間の活動でも積み重ねることで健康への関連があることが示されています。10分の歩行を複数回行うことも、まとまった時間の運動と同様の関連が示されています。「まとまった時間がないから意味がない」ではなく、「できる範囲で積み重ねる」という視点が大切です。

薬剤師・運動指導者として伝えたいこと

有酸素運動を始める際に、服薬中の方が注意したい点があります。

降圧薬を服用している方は、運動後に血圧が過度に低下する(起立性低血圧)ことがあります。特に運動直後・入浴後・気温が高い日は注意が必要です。

糖尿病治療薬(インスリン・一部の経口血糖降下薬)を服用している方は、有酸素運動による血糖低下で低血糖が起きやすくなることがあります。空腹時の運動・運動量が普段より多い日などは特に注意が必要です。

β遮断薬(一部の降圧薬・不整脈の薬)を服用している方は、運動中の心拍数が上がりにくくなることがあります。心拍数だけを運動強度の目安にすると、強度を誤って評価することがあります。

「運動が体に良い」ことと「誰でも同じように始めていい」は別の話です。持病がある方・服薬中の方は、運動の種類・強度・タイミングについて処方医に確認した上で始めることをお勧めします。

今日のまとめ

– 有酸素運動とは、酸素を使ってエネルギーを産生しながら継続できる運動
– ウォーキング・ジョギング・水泳・サイクリングなどがこれに当たる
– 血圧・血糖・脂質・心肺機能など、全身に関わる健康への影響が示されている
– 「20分以上でないと意味がない」は誤り。短時間でも積み重ねに意味がある
– 服薬中の方は運動の種類・タイミングに注意が必要な場合がある
– 次回は「筋力トレーニング」を整理します

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」

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