2026/10/03

1日何歩くらい歩けばいい? 【運動と健康シリーズ・第8回】

はじめに

「1日1万歩が健康にいい」という話を一度は聞いたことがあると思います。でもこの「1万歩」という数字はどこから来たのか、本当に全員に必要な数字なのか、正確に知っている方は少ないかもしれません。

第8回は「歩数と健康」の関係を、最新の研究・ガイドラインをもとに整理します。

「1万歩」という数字の由来

「1日1万歩」という数字は、1960年代に日本で発売された歩数計の商品名「万歩計」に由来するとされており、もともと科学的な根拠から導き出された数字ではありませんでした。

キリのいい数字としてわかりやすく広まりましたが、「1万歩でなければ効果がない」「1万歩を超えれば超えるほど効果がある」という意味ではありません。では科学的にはどう考えられているのでしょうか。

最新の研究・ガイドラインが示すこと

近年の研究では、歩数と健康リスクの関係について多くのことが明らかになってきました。

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人(18〜64歳)に1日8,000歩以上・高齢者(65歳以上)に1日6,000歩以上を目安として示しています。

2023年にLancet Public Health誌に掲載されたメタ分析(複数の研究を統合した解析)では、歩数が増えるほど全死亡リスク・心血管疾患リスクが低下し、1日約6,000〜8,000歩程度でそのリスク低減効果が概ね頭打ちになる傾向が示されました。1万歩を大きく超えてもそれに比例してリスクが下がり続けるわけではないという結果です。ただしこれは「1万歩を歩く必要がない」という意味ではなく、特に高齢者では1万歩程度の目安が有効な場合もあります。

また同研究では、高齢者(60歳以上)では6,000〜8,000歩、若い成人では8,000〜10,000歩程度で効果が概ね安定する傾向が示されており、年齢によって適切な目安が異なる可能性があります。

歩く「速さ」も重要

歩数と同様に、歩く速さも健康との関連が研究で示されています。

同じ歩数でも、ゆっくり歩くより速く歩く方が心血管疾患・死亡リスクとの関連が強いことが複数の研究で報告されています。「速歩き」は第3回・第7回で解説した「中等度の有酸素運動(約3〜4メッツ)」に相当し、心肺機能への刺激としても有効です。

「歩数を稼ぐこと」だけでなく、「少し速めに歩く」という意識を持つことで、同じ時間でも健康への関連をより高めることができる可能性があります。ただし膝・腰に問題がある方は、速さより無理のないペースを優先することが重要です。

現在の日本人の歩数

令和元年国民健康・栄養調査によると、日本人の1日の平均歩数は成人男性6,793歩・女性5,832歩とされており、ガイドラインの目安(成人8,000歩以上)を下回っている状況が続いています。

多くの方が「あと1,000〜2,000歩増やす」ことで目安に近づける状況にあります。

歩数を増やす現実的なアプローチ

歩数を増やすための特別なプログラムは必要ありません。日常の中に組み込む方法が継続しやすいとされています。

一駅手前で降りて歩く・エレベーターより階段を使う・昼食後に10〜15分歩く習慣をつける・買い物は少し遠いスーパーまで歩く・電話中は立って歩きながら話す。

こうした「日常の動きのついで」を積み重ねることが、無理なく歩数を増やす現実的な方法です。第2回で解説した「日常の身体活動を増やす」という考え方がここでも当てはまります。

よくある誤解

❌「1日1万歩歩かなければ、健康への効果はない」

↓

✅ 1万歩は科学的根拠から導き出された基準ではなく、6,000〜8,000歩程度でも健康への関連が示されています

「1万歩に届かなかった日は意味がなかった」という考え方は、歩数と健康の関係を正確に反映していません。研究では6,000〜8,000歩程度でも十分な健康への関連が示されており、現在の歩数より少し増やすことに意味があります。また歩数だけでなく歩く速さも関係していることを意識すると、日常の歩行の質も変わります。

薬剤師・運動指導者として伝えたいこと

歩数を増やすことを考える前に、まず「今日何歩歩いたか」を知ることが出発点です。スマートフォンの歩数計・ウェアラブルデバイスを活用して、まず自分の現状を把握することをお勧めします。記録することで「いつ、どこで歩いているか」が見えてきます。

膝・腰に問題がある方は、歩数や速さを増やす前に関節への負担が少ない動き(水中歩行・自転車など)を選択肢に入れることも一つの方法です。心疾患がある方は、運動強度について処方医に確認した上で進めることが大切です。

血圧の薬・糖尿病の薬を服用している方は、歩行量が増えることで血圧・血糖値に変化が出ることがあります。体の変化に気づいたら、服薬の調整について処方医に相談することをお勧めします。

今日のまとめ

– 「1日1万歩」は科学的根拠から導き出された数字ではなく、歩数計の商品名に由来する

– ガイドラインでは成人8,000歩以上・高齢者6,000歩以上が目安として示されている

– 研究では6,000〜8,000歩程度でリスク低減効果が安定する傾向が示されている

– 歩く「速さ」も健康との関連に影響する。少し速めを意識することも有効

– 現在の歩数より少し増やすことに意味がある。目標に届かなくても取り組む価値がある

– 次回は「筋力トレーニングは週何回必要か」を整理します

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)

Well Lab — well-lab-kitagawa.net

「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」

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