はじめに
「筋トレは毎日やった方がいいの?」「週1回では意味がない?」。筋力トレーニングの頻度について、正確な情報を知っている方は少ないかもしれません。
第9回は「筋力トレーニングの頻度」を整理します。第2章「運動量を知る」の締めくくりとして、有酸素運動・歩数とともに、運動量の全体像を確認します。
ガイドラインが示す頻度
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人・高齢者に対して筋力トレーニングを週2〜3日行うことが推奨されています。
WHO「身体活動と座位行動に関するガイドライン(2020年)」でも同様に、成人・高齢者に週2日以上の筋力強化活動が推奨されています。
「週2〜3日」というのは、毎日行う必要はないということでもあります。筋肉は負荷をかけた後、回復・再構築のための時間が必要です(第4回参照)。この回復時間を適切に設けることが、筋力トレーニングの効果を引き出す上で重要な要素の一つです。
「毎日やる方がいい」は誤解
同じ筋肉群を毎日トレーニングすることは、健康づくりを目的とした場合には一般的に推奨されません。回復が不十分な状態でトレーニングを繰り返すと、疲労が蓄積しやすくなり、オーバートレーニング・けがのリスクも高まります。
ただし「毎日体を動かすこと」自体は問題ありません。鍛える部位を日ごとに分けることで、毎日活動することができます。たとえば月曜・木曜は下半身(スクワット・ランジなど)・火曜・金曜は上半身(腕立て伏せ・ロウイングなど)・水曜は有酸素運動(ウォーキング・水泳など)というように組み合わせることができます。
重要な原則は「同じ筋肉群の間に少なくとも48時間の回復時間を設けること」です。この時間の中で筋たんぱく質の合成が行われ、筋肉が修復・強化されます。
週1回ではどうか
週1回の筋力トレーニングでも、全くしない場合と比べると筋力・筋肉量の維持・改善に関連することが示されています。特に現在まったく行っていない方にとっては、週1回から始めることに意味があります。
「週2〜3日が推奨されているから週1回では意味がない」という考え方は、行動の出発点を遠ざけてしまいます。週1回から始めて、慣れてきたら週2回に増やすという段階的なアプローチが継続しやすい方法の一つです。
一方で、週4日以上の高頻度トレーニングについては、健康づくりを目的とした場合に週2〜3日と比べて明確に大きな効果があるとは示されていません。頻度より「継続できること」を優先することが大切です。
何を・どのくらいやればいいか
健康づくりを目的とした筋力トレーニングの基本的な目安として以下が参考になります。
対象とする筋群
上半身(胸・背中・肩・腕)・体幹(腹部・背部)・下半身(大腿部・臀部・下腿部)の主要な筋群を週に満遍なく刺激することが基本です。特に下肢の大きな筋肉(大腿四頭筋・臀筋など)は、日常動作・転倒予防・代謝に関わる重要な部位です。
負荷・回数の目安
10〜15回程度繰り返せる負荷で1〜3セットが健康づくりの目安として示されています(American College of Sports Medicine)。「最大限の力を出し切る」ような高強度は、健康づくりを目的とした場合には必須ではありません。慣れてきたら負荷・回数・セット数を少しずつ増やすことで継続的な刺激を与えることができます。
種目の選択
スクワット(椅子からの立ち座りでも代替可能)・腕立て伏せ(膝をついた形から始めても可)・腹筋・背筋など、自分の体重を負荷にした自重トレーニングから始めることが、器具なしで取り組める現実的な方法です。
高齢者では「転倒予防」の観点から、片脚立ち・かかと上げ・サイドステップなどバランス系の動きを組み合わせることも推奨されています(第17回で詳しく扱います)。
第2章のまとめ:運動量の全体像
第7〜9回を通じて「どのくらい体を動かせばいいか」の全体像が整理されました。
有酸素運動(第7回):週23メッツ・時以上の身体活動(1日60分の歩行相当)、うち運動は週4メッツ・時以上。
歩数(第8回):成人8,000歩以上・高齢者6,000歩以上が目安。歩く速さも重要。
筋力トレーニング(第9回):週2〜3日、主要な筋群を対象に。
座位行動(第6回):30分ごとに立ち上がるなど、座り続ける時間を分断。
これらはすべてを同時に完璧にこなすものではなく、自分の生活・体力・健康状態に合わせてできることから取り組んでいくものです。
よくある誤解
❌「毎日筋トレをしないと、筋肉はつかない・減ってしまう」
↓
✅ 筋肉の回復・再構築には時間が必要です。週2〜3日の適切な頻度が推奨されています
筋力トレーニングの効果は、やった日だけでなく回復期間中に筋肉が修復・再構築されることで生まれます。毎日同じ筋肉を追い込むことは、健康づくりを目的とした場合には逆効果になる可能性があります。「適切な刺激と回復の繰り返し」が基本的な考え方です。
薬剤師・運動指導者として伝えたいこと
筋力トレーニングを始める際に、頻度と同じくらい重要なのが「安全に行うこと」です。
正しいフォームで行うことが、効果を高めけがを防ぐ基本です。特に始めたばかりの頃は重い負荷より「正しい動作を習得すること」を優先することをお勧めします。
高血圧・骨粗しょう症・関節疾患がある方・高齢の方は、種目の選択・負荷のかけ方について処方医や専門家に相談した上で始めることが安全です。
またたんぱく質の摂取と十分な睡眠は筋肉の回復・維持に関わります(第5回参照)。トレーニングだけでなく、食事・睡眠とのセットで考えることが筋肉を守る上で重要です。
次回からは第3章「運動と健康を知る」に入ります。第7〜9回で整理した「どのくらい動くか」という量の話に加えて、「どんな効果があるか」という質の話を扱っていきます。
今日のまとめ
– 筋力トレーニングは週2〜3日が推奨されている。毎日同じ筋群を鍛えることは健康づくり目的では推奨されない
– 筋肉の修復・再構築には同じ筋群の間に48時間以上の回復時間が必要
– 週1回から始めることにも意味がある。頻度より「継続できること」を優先
– 10〜15回反復できる負荷で1〜3セットが健康づくりの目安
– 自重トレーニング(スクワット・腕立て伏せなど)から始めることが現実的な出発点
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
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