はじめに
「コレステロールが高いと言われたけど、運動で改善できるの?」「中性脂肪が高いのは食事だけの問題?」。脂質と運動の関係は、血圧・血糖と同様に多くの方が気にしているテーマです。
第12回は「運動と脂質(コレステロール・中性脂肪)」の関係を整理します。脂質にはいくつかの種類があり、運動の影響も種類によって異なるという点が、このテーマの理解で最も重要な点です。
運動は脂質にどう影響するか
脂質の種類ごとに運動の影響をまとめます。
HDLコレステロール(善玉コレステロール)
定期的な有酸素運動はHDLコレステロールを上昇させる方向に働くことが多くの研究で示されています。HDLは余分なコレステロールを血管から回収する役割があり(健診シリーズ第4回参照)、この数値の上昇は動脈硬化リスクの低減と関連します。HDLを上昇させる薬は現時点では限られており、生活習慣の改善、特に有酸素運動と禁煙がHDL上昇に最も効果的な手段とされています(生活習慣病シリーズ第8回参照)。
中性脂肪(トリグリセリド)
有酸素運動は中性脂肪を低下させる方向に働くことが示されています。中性脂肪が高い方では、運動による低下効果が特に大きく現れる場合があります。また中性脂肪はHDLと逆の動きをしやすく(中性脂肪が高いとHDLが低くなりやすい)、この両方を改善するという意味で有酸素運動の価値があります。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
LDLに対する運動の直接的な影響は、HDLや中性脂肪と比べると小さいとされています。LDLの管理には食事(特に飽和脂肪酸の摂取量)の影響が大きく、運動だけで大幅な低下を期待することは難しい場合があります。ただし体重管理・内臓脂肪の減少を通じて間接的にLDLに影響することはあります。
体の中で何が起きているか
運動が脂質に関わるメカニズムとして以下のことが示されています。
リポタンパクリパーゼ(LPL)の活性化
第6回で触れたLPLは血液中の中性脂肪を分解する酵素で、筋肉・脂肪組織に多く存在します。有酸素運動によってLPLの活性が高まり、中性脂肪の処理能力が向上することが示されています。長時間座り続けることでLPLの活性が低下するという研究も、この酵素の重要性を示しています。
HDLの代謝改善
運動によってHDLの産生が促進されるとともに、HDLの「質」(コレステロールの回収能力・逆コレステロール輸送の効率)も改善する方向に働くことが研究で示されています。
脂質のエネルギー利用
有酸素運動中は脂質がエネルギー源として積極的に使われます(第3回参照)。継続的な有酸素運動は体が脂質をエネルギーとして利用する能力を高め、脂質代謝全体の改善につながると考えられています。
体重・内臓脂肪への影響
内臓脂肪の蓄積はLDL上昇・HDL低下・中性脂肪上昇と関連します(生活習慣病シリーズ第4回参照)。運動による体重管理・内臓脂肪の減少が、脂質全体の改善に間接的に貢献します。
どのくらいの運動が効果的か
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」では、脂質異常症の管理において中等度の有酸素運動を毎日30分以上行うことが推奨されています。
研究では、週に数回まとめて行うより毎日少しずつ継続する方がHDL上昇・中性脂肪低下の効果が安定しやすいとされています。強度を上げるより「継続的な習慣」が鍵になります。
筋力トレーニングも脂質改善に一定の関連があることが示されており、有酸素運動との組み合わせが推奨されています。また第6回で解説した「座りっぱなしを減らすこと」もLPLの活性維持を通じて脂質管理に関連します。
どんな状態と関係するか
運動と脂質の関わりが特に重要な状況として以下が挙げられます。
高中性脂肪・低HDLの状態
このパターンは内臓脂肪蓄積・メタボリックシンドロームと関連しやすく、有酸素運動による改善効果が特に期待できる状態です。
脂質異常症の薬との組み合わせ
薬でLDLをコントロールしながら、運動でHDL・中性脂肪の改善を図る、という役割分担が脂質管理の基本的な考え方です。
動脈硬化リスクの低減
LDL・HDL・中性脂肪は単独ではなく、総合的なリスクとして評価されます。運動によるHDL上昇・中性脂肪低下は、薬だけでは改善しにくい部分を補う意味があります。
よくある誤解
❌「運動してもコレステロールは下がらないから、薬に頼るしかない」
↓
✅ LDLへの直接的な効果は限定的ですが、HDL上昇・中性脂肪低下への関連は示されています
「コレステロール=LDL」と捉えて「運動しても下がらない」と諦めている方がいますが、脂質管理においてHDLの上昇・中性脂肪の低下も重要な意味を持ちます。またHDLを上昇させる薬は現時点では限られており、有酸素運動はHDL改善に最も効果的な手段の一つです。脂質管理は運動・食事・薬物療法の組み合わせが基本であり、どれか一つだけで完結するものではありません。
薬剤師・運動指導者として伝えたいこと
脂質関連の薬を服用している方が運動を行う際に知っておきたいことがあります。
スタチン系薬剤と筋肉症状
スタチン系薬剤(コレステロールを下げる薬)を服用している方は、まれに筋肉への影響(筋肉痛・だるさ・脱力感)が現れることがあります。筋力トレーニング中に異常な筋肉の症状がある場合は自己判断せず処方医に相談してください。スタチン服用中でも適切な強度の運動は推奨されており、筋肉症状が気になる場合は運動を中止するより、まず医師に相談することをお勧めします(生活習慣病シリーズ第8回参照)。
フィブラート系薬剤と脱水
中性脂肪を下げるフィブラート系薬剤を服用している方は、運動中の脱水に注意が必要な場合があります。特に夏場・長時間の運動では十分な水分補給が大切です。
EPA製剤と運動
高中性脂肪に対して処方されるEPA製剤(イコサペント酸エチル)と運動は互いに補完的に働くことが期待されます。薬で中性脂肪を管理しながら、運動でHDLを高めるという組み合わせは理にかなっています。
脂質の薬を飲んでいるから運動は不要、ということはありません。運動によるHDL上昇・中性脂肪低下は薬とは異なる経路で働き、薬と運動の組み合わせがより総合的な脂質管理につながります。
今日のまとめ
– 有酸素運動はHDLコレステロールの上昇・中性脂肪の低下と関連することが示されている
– LDLへの直接的な効果は限定的。食事・薬物療法との組み合わせが基本
– LPLの活性化・HDL代謝の改善・脂質のエネルギー利用向上がメカニズムとして示されている
– HDLを上昇させる薬は限られており、有酸素運動はHDL改善に最も効果的な手段の一つ
– スタチン系薬剤服用中に筋肉症状がある場合は自己判断せず処方医に相談を
– 次回は「運動と骨の健康」を整理します
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」
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