「十分に眠ったはずなのに体が重い」「慢性的なだるさが続いている」。こうした訴えは、薬局や健康相談の現場でも非常に多く聞かれます。
慢性的な疲労感は、単なる「疲れすぎ」や「加齢」として片付けられやすい症状ですが、その背景には睡眠の質・栄養状態・身体活動量・精神的ストレス・基礎疾患・薬剤の影響など、複数の要因が関与していることがあります。この記事では、薬剤師・健康運動実践指導者の視点から、疲労が慢性化する主な原因と対処の方向性を整理します。
① 睡眠の質の問題
睡眠時間を確保していても、睡眠の「質」が低ければ疲労は十分に回復されません。睡眠中、体は成長ホルモンを分泌して筋肉・組織の修復を行い、脳では老廃物(アミロイドβなど)の除去が行われます。これらの作用は主に深いノンレム睡眠(徐波睡眠)の時間帯に集中しています。
睡眠の質を低下させる主な要因として以下が挙げられます。
就寝前のブルーライト暴露(スマートフォン・パソコン)によるメラトニン分泌抑制。アルコールの摂取(入眠を促すが睡眠後半の眠りを浅くする)。不規則な就寝・起床時間による概日リズムの乱れ。睡眠時無呼吸症候群(後述)。
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、睡眠時間の確保に加えて「睡眠休養感(眠れた感覚)」を重視することが示されています。睡眠時間が確保されているにもかかわらず疲労感が続く場合は、睡眠の質の観点からのアセスメントが重要です。
② 栄養不足・食事の乱れ
疲労回復には特定の栄養素が必要であり、不足すると慢性疲労につながることがあります。
鉄欠乏性貧血は、赤血球による酸素運搬能力の低下を通じて、倦怠感・易疲労感・息切れをきたします。特に月経のある女性・高齢者・食事摂取量が少ない方での頻度が高く、血液検査(Hb・フェリチン)で確認できます。
ビタミンB群(B1・B2・B12・葉酸など)はエネルギー代謝に必須であり、不足するとATP産生効率が低下します。過度の飲酒・偏食・消化器疾患による吸収不良などで不足しやすくなります。
ビタミンD不足も疲労感・筋力低下との関連が報告されており、日照不足・屋外活動の少ない方・高齢者では特に注意が必要です。
たんぱく質は筋肉・酵素・ホルモンの材料として疲労回復に関わります。エネルギー摂取量が少ない方・糖質に偏った食事の方では不足しやすくなります。
③ 身体活動量の低下・運動不足
身体活動量の低下は、慢性疲労の原因にも、また悪化因子にもなります。
運動習慣がない状態が続くと心肺機能・筋機能が低下し、日常動作でのエネルギー消費効率が悪化します。また、血行不良によって疲労物質の除去が遅くなります。
一方、定期的な中等度の有酸素運動は、自律神経バランスの改善・睡眠の質向上・気分の安定と関連することが示されています(厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」)。「疲れているから動けない」という状態においても、軽強度の身体活動から段階的に取り組むことが有用な場合があります。
④ 精神的ストレス・自律神経の乱れ
慢性的なストレスは交感神経の過活動状態を持続させ、休息中・睡眠中においても副交感神経優位への切り替えが不十分になります。その結果、睡眠の質が低下し、疲労が回復されにくくなります。
またうつ病・不安障害は倦怠感・疲労感・睡眠障害として現れることがあり、疲労の背景に精神疾患が存在する場合があります。精神的疲労が持続する場合は、精神科・心療内科への相談が必要です。
⑤ 基礎疾患による疲労
疲労感・倦怠感を主症状として現れる疾患として以下が挙げられます。
甲状腺機能低下症:代謝低下による易疲労感・体重増加・寒がり・むくみ。TSH・FT4の血液検査で確認できます。
糖尿病・血糖値の異常:慢性的な高血糖状態はエネルギー利用効率を低下させ、倦怠感・口渇・多尿をきたすことがあります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS):睡眠中の気道閉塞による睡眠の質の著しい低下。日中過眠・疲労感・集中力低下が特徴です。肥満・高血圧・いびきを伴う場合に疑います。ポリソムノグラフィー(PSG)または簡易検査で診断されます。
貧血(鉄欠乏性・その他):前述の通り。
慢性腎臓病・心疾患・膠原病・悪性疾患なども疲労感を主訴として現れることがあります。症状が長期間続く場合は鑑別診断が必要です。
⑥ 薬剤の影響
薬剤師として特に重要な観点として、服薬中の薬剤が疲労感・倦怠感に影響している可能性があります。
以下の薬剤は疲労感・眠気・倦怠感と関連することが知られています。
第一世代抗ヒスタミン薬(花粉症薬・かぜ薬の一部):抗コリン作用・中枢抑制による眠気・倦怠感。β遮断薬(降圧薬・不整脈治療薬):中枢神経への影響による疲労感・抑うつ気分。ベンゾジアゼピン系薬(睡眠薬・抗不安薬):翌日への持ち越し効果による倦怠感・集中力低下。スタチン系薬剤:まれに筋肉症状(筋肉痛・脱力感・倦怠感)。一部の抗うつ薬・抗精神病薬:初期の眠気・倦怠感。
服薬開始後または増量後から疲労感が増した場合は、薬剤性の可能性を考慮し、処方医・薬剤師への相談が必要です。自己判断による中止は避けてください。
医療機関への相談が必要な目安
以下に当てはまる場合は、医療機関での評価が推奨されます。
・2週間以上、休息によって改善しない疲労感が続く
・日中の強い眠気・集中力低下が業務・日常生活に支障をきたしている
・動悸・息切れ・浮腫・体重変化など、疲労以外の症状を伴っている
・いびきが強い・睡眠中の無呼吸を指摘されたことがある
・気分の低下・意欲の喪失・食欲不振が続いている
・服薬開始・増量後から症状が出現・悪化した
受診の際は「いつから・どのような状態で・何をしても改善しないか」を整理して伝えることで、原因の特定がより円滑になります。
血液検査(CBC・フェリチン・甲状腺機能・血糖・HbA1c・肝機能・腎機能・ビタミンDなど)により、多くの原因疾患を鑑別することができます。
まとめ
・慢性的な疲労感の原因は睡眠の質・栄養状態・身体活動量・ストレス・基礎疾患・薬剤の影響など複数が関与する
・睡眠の「量」よりも「質」が重要。就寝前の生活習慣・睡眠時無呼吸症候群の有無を確認する
・鉄欠乏性貧血・甲状腺機能低下症・糖尿病などは血液検査で鑑別できる
・服薬中の薬剤が疲労感に関与している可能性がある。自己判断による中止は避け、処方医・薬剤師に相談する
・2週間以上続く疲労感・他症状を伴う場合は医療機関での評価が必要
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」睡眠・栄養・運動・受診のタイミング——それぞれの役割を理解した上で、自分の体と向き合うことが健康寿命につながります。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト / 健康運動実践指導者)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
【参考資料】
・厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf
・厚生労働省 e-ヘルスネット「疲労と疲労感」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/fatigue
・厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
・日本甲状腺学会「甲状腺機能低下症」
https://www.japanthyroid.jp/public/knowledge.html
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