2026/11/06

HbA1cが高いと言われたら ——判定区分・診断の考え方・生活習慣介入と服薬上の注意

はじめに

健康診断でHbA1c高値を指摘された方から、「糖尿病と診断されたということか」「何を変えればよいのか」という相談を受ける機会は少なくありません。HbA1cは、自覚症状のない段階で血糖の状態を把握できる重要な指標ですが、判定区分と診断の関係は誤解されやすい項目でもあります。

本稿では、薬剤師・健康運動実践指導者の立場から、HbA1c高値を指摘された際の考え方を、公的な判定基準と診療ガイドラインに沿って整理します。

1.HbA1cが示すもの

HbA1cは、赤血球中のヘモグロビンにブドウ糖が結合したものの割合です。約1〜2か月間の平均的な血糖状態を反映し、食事や運動などによる短期的な変動の影響を受けにくい指標です。

日本では2012年にJDS値からNGSP値(国際標準値)への切り替えが行われ、現在、注釈のない数値はNGSP値を表します。JDS値にはおよそ0.4を加えるとNGSP値に相当します。過去の健診結果と比較する際には、表記の違いに注意が必要です。

2.判定区分と健診制度上の位置づけ

厚生労働省の通知に基づく特定健診・特定保健指導では、HbA1c(NGSP値)について以下の判定値が設定されています。

・5.6%以上:特定保健指導レベルの判定値

・6.5%以上:受診勧奨判定値

HbA1cが5.5%以下であれば基準範囲として扱われます。5.6〜6.4%は、糖尿病に至る前の段階として、生活習慣の見直しを促す区分です。

なお、判定値は「糖尿病の診断」そのものを意味しません。次項のとおり、診断は別の基準で行われます。

3.糖尿病の診断における考え方

日本糖尿病学会の診断基準では、以下のいずれかを「糖尿病型」とします。

・空腹時血糖値126mg/dL以上

・75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上

・随時血糖値200mg/dL以上

・HbA1c 6.5%以上

血糖値とHbA1cがともに糖尿病型であれば、1回の検査で糖尿病と診断されます。一方、HbA1cのみが糖尿病型の場合は、再検査が必要です。初回検査と再検査の少なくとも一方で、血糖値が糖尿病型を満たすことが診断の条件とされています(HbA1cのみでの診断は不可)。

したがって「HbA1c 6.5%以上=糖尿病確定」ではなく、「血糖値を含めた精査が必要な段階」と整理するのが正確です。ただし、糖尿病の典型症状(口渇・多飲・多尿・体重減少)や糖尿病網膜症が確認される場合は、扱いが異なります。

4.数値の解釈で注意すべき点

HbA1cは平均血糖と必ずしも一致しません。以下のような状態では、実際の血糖コントロールと乖離することがあります。

・貧血(鉄欠乏性貧血、およびその治療中)

・溶血性疾患、出血、赤血球寿命が変化する病態

・腎機能低下(腎性貧血を伴う場合)

また、ステロイド薬など血糖を上昇させる薬剤を服用している場合は、薬剤の影響を考慮する必要があります。受診時には、服薬内容と貧血の指摘の有無を併せて伝えることが重要です。

5.治療中の血糖コントロール目標

すでに糖尿病と診断されている場合の目標値は、日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド2024」で以下のように示されています。

・6.0%未満:血糖正常化を目指す際の目標

・7.0%未満:合併症予防のための目標

・8.0%未満:治療の強化が困難な際の目標

これらは一律の基準ではなく、年齢・罹病期間・合併症・低血糖リスク・認知機能などを踏まえて個別に設定されます。特に高齢者では、重症低血糖を起こしうる薬剤(インスリン、SU薬、グリニド薬など)を使用している場合に、目標が緩やかに設定される場合があります。「HbA1cは低いほどよい」という考え方は、すべての方に当てはまりません。

6.生活習慣の観点

「糖尿病診療ガイドライン2024」では、血糖管理を食事だけでなく、身体活動・座位行動・睡眠を含めた1日全体の生活習慣として捉える方向が示されています。

食事:エネルギー摂取量の適正化と食物繊維の摂取が基本です。極端な炭水化物制限は、長期的な有効性・安全性のエビデンスが十分でなく、画一的には推奨されていません。

運動:有酸素運動と筋力トレーニングは、いずれもインスリン感受性や血糖処理能力の改善と関連します。筋収縮はインスリンとは独立した経路でも筋へのブドウ糖取り込みを促します。また、長時間の座位を30分ごとに数分の軽い活動で分断することが、食後血糖の改善と関連することが示されています。運動の量の目安は、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が参考になります。

体重・睡眠:過体重・肥満がある場合は、数%の減量でも血糖の改善が報告されています。睡眠不足はインスリン抵抗性の悪化と関連します。

これらは、すべてを同時に実行すべきものではなく、本人の生活環境・体力・健康状態に応じて、実行可能なものから段階的に取り入れていくことが前提です。

7.薬剤師・運動指導者の視点

薬物療法の開始は、HbA1cの値だけでなく、血糖値、年齢、合併症、肥満の有無などを踏まえた医師の判断によります。初期の段階では生活習慣の見直しが先行することが多く、薬が開始された後も、生活習慣は薬の効果を支える土台として位置づけられます。

薬剤師として特に注意を促したい点は以下の通りです。

・インスリンおよびSU薬服用中は、食事量の減少・運動量の増加・飲酒により低血糖が起こりうる。運動前後の血糖確認と、ブドウ糖の携帯が望ましい

・SGLT2阻害薬服用中は、発汗の多い運動や発熱・下痢時に脱水へ注意する

・シックデイ(発熱・嘔吐・下痢などで食事が摂れない日)の服薬の扱いは、あらかじめ処方医に確認しておく

・ステロイド薬など血糖に影響する薬剤を使用している場合は、受診時に申告する

・服薬の自己判断による中止・減量は行わない

運動を開始・強化する場合は、持病・服薬状況を踏まえ、種類・強度・タイミングについて処方医に確認することが安全です。

8.医療機関への相談の目安

・HbA1cが6.5%以上と指摘された(精査のため、時期を空けずに受診する)

・口渇、多尿、体重減少、強い倦怠感などの症状がある

・健診で空腹時血糖値の異常も同時に指摘された

・HbA1cが経年的に上昇している

・服薬中で、低血糖を疑う症状(動悸・冷や汗・手の震え・ふらつき)がある

まとめ

・HbA1cは過去1〜2か月の平均的な血糖状態を示す指標であり、直前の食事制限の影響を受けにくい

・特定健診の判定値は5.6%以上で保健指導、6.5%以上で受診勧奨

・6.5%以上は糖尿病型だが、診断は血糖値を含めた再検査で行われ、HbA1c単独では確定しない

・貧血や腎機能低下、薬剤の影響により、HbA1cが実態と乖離する場合がある

・治療中の目標値は個別に設定され、「低いほどよい」とは限らない

・生活習慣(食事・運動・座位・睡眠・体重)は薬物療法を支える土台であり、両者は対立しない

・服薬中の方は、低血糖への備えと自己判断による変更の回避が重要

「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト / 健康運動実践指導者)

Well Lab — well-lab-kitagawa.net

【参考資料】

・厚生労働省通知「特定健康診査等におけるHbA1c等の判定値の見直しについて」

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/info02i_jimu03.pdf

・日本糖尿病学会「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」(診断基準)

https://plaza.umin.ac.jp/~spell/nangoroku/JDS_DMDiagnosis2010report.pdf

・日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド2024」「糖尿病診療ガイドライン2024」

https://www.jds.or.jp/

・厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」

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