2026/11/07

血圧が高いと何が問題か ——高血圧の病態・診断基準・管理目標とリスク

はじめに

健診で血圧高値を指摘されても、自覚症状がないために受診や生活の見直しが遅れる方は少なくありません。高血圧は、症状が乏しいまま血管や臓器への負担が蓄積する疾患であり、「問題」が見えにくい点に難しさがあります。

日本高血圧学会は2025年8月に「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」を6年ぶりに改訂しました。本稿では、薬剤師・健康運動実践指導者の立場から、血圧高値がなぜ問題となるのか、診断基準と管理目標の関係、生活習慣と薬剤の観点を整理します。

1.高血圧が問題となる理由

血圧は、心臓から拍出された血液が動脈壁に及ぼす圧力です。この圧が持続的に高い状態では、血管内皮の傷害、血管壁の肥厚・硬化が進行し、動脈硬化の進展につながります。

その結果、以下の疾患のリスクが高まります。

・脳血管疾患(脳梗塞・脳出血)

・心疾患(心筋梗塞・狭心症・心不全・心房細動)

・慢性腎臓病(腎細動脈硬化による糸球体ろ過能の低下)

・認知機能低下、大動脈疾患など

JSH2025の解説では、高血圧は脳心血管病死亡の最も強力な危険因子とされ、高血圧関連疾患により毎年約17万人が亡くなっていると報告されています。また、わが国の高血圧管理率(適切に血圧がコントロールされている割合)は諸外国と比べて低く、重要な課題として指摘されています。

血圧と脳心血管病リスクの関係は、ある閾値で急に変わるものではなく、血圧が高いほど連続的にリスクが上昇する関係として理解されています。

2.診断基準と降圧目標の整理

「診断基準」と「降圧目標」は別の概念であり、混同されやすい点です。

診断基準

診察室血圧140/90mmHg以上が高血圧と診断されます。JSH2025でもこの診断基準に変更はありません。

降圧目標(JSH2025)

従来は年齢や合併症によって異なっていた目標が統一され、原則として診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満とされました。「厳格降圧」という表現や、目標値としての140/90という記載は削除されています。

ただし、めまい・ふらつき・立ちくらみ・倦怠感・失神などの症候性低血圧、急性腎障害、高カリウム血症などの有害事象に注意しながら降圧を進めることが前提です。また、高齢者や併存疾患のある方では、個別の状態に応じた判断が必要とされています。

高値血圧(診察室130〜139/80〜89mmHg)

脳心血管病の既往、臓器障害、糖尿病を伴わず、発症リスクが低〜中等度の場合は、生活習慣の改善を強化することが基本とされています。

慢性腎臓病(CKD)

日本腎臓学会は2026年6月、CKD患者の血圧管理についてJSH2025との整合性を踏まえたステートメントを公表し、糖尿病や蛋白尿の区分にかかわらず、原則として診察室血圧130/80mmHg(家庭血圧125/75mmHg)未満を目標とする見解を示しています。

3.血圧上昇の背景

高血圧の大半は、単一の原因が特定できない本態性高血圧です。遺伝的素因と加齢に、以下の生活習慣要因が重なって発症・進行します。

・食塩の過剰摂取(日本人の平均摂取量は、令和5年国民健康・栄養調査で男性10.7g、女性9.1g。JSH2025の目標は6g/日未満)

・肥満、特に内臓脂肪の蓄積

・身体活動の不足、座位時間の長さ

・多量飲酒

・睡眠不足、慢性的な精神的ストレス

一方、原発性アルドステロン症、腎実質性・腎血管性高血圧、睡眠時無呼吸症候群、薬剤性高血圧などの二次性高血圧が背景にある場合があります。若年での発症、急激な上昇、多剤併用でも降圧が不十分な場合には、精査の対象となります。

4.血圧に影響する薬剤(薬剤師の視点)

血圧を上昇させる可能性のある薬剤や成分には、以下があります。

・NSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェンなど):腎でのナトリウム・水分貯留により血圧が上昇しうる。降圧薬(特にACE阻害薬・ARB・利尿薬)の効果を減弱させることがある

・甘草(グリチルリチン)を含む漢方薬・市販薬:偽アルドステロン症により、血圧上昇・低カリウム血症・浮腫をきたすことがある

・偽エフェドリン等の交感神経刺激薬を含むかぜ薬・鼻炎薬

・ステロイド薬

また、降圧薬は症状がない状態でも継続することで、脳心血管イベントの予防効果が期待されるものです。自覚症状の乏しさや、一時的な数値の改善を理由とした自己判断による中止・減量は避ける必要があります。降圧薬の副作用(めまい・ふらつき、むくみ、咳、高カリウム血症など)が疑われる場合も、中止せず処方医に相談することが重要です。

市販薬・サプリメント・漢方薬を含めた服用状況を、受診時に正確に伝えることが、血圧管理の質を高めます。

5.生活習慣の観点

JSH2025では、生活習慣の改善は薬物療法と並ぶ管理の柱と位置づけられています。

・減塩:食塩摂取量6g/日未満

・体重管理:肥満がある場合は減量

・運動:有酸素運動を中心に、中等度の強度で習慣化する。運動により収縮期血圧が数mmHg〜10mmHg程度低下したとする報告がある

・節酒、禁煙

・睡眠の確保、座位時間の分断

重要なのは、これらを同時にすべて達成することではなく、個人の生活環境・体力・健康状態に応じて、実行可能なものから段階的に取り入れる姿勢です。複数の改善が組み合わさることで、より大きな効果が期待されます。運動の量や強度の目安は、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が参考になります。

加えて、家庭血圧の測定が管理において重視されています。朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前)と晩(就寝前)に同じ条件で測定し、記録することで、診察室では把握できない血圧の変動や薬の効果を評価できます。

6.医療機関への相談の目安

・診察室血圧140/90mmHg以上を指摘された

・家庭血圧が継続して125/75mmHgを超えている

・健診で血圧の上昇傾向が続いている

・降圧薬服用中で、ふらつき・立ちくらみ・むくみなどの症状がある

なお、突然の激しい頭痛、胸痛、片側の手足の麻痺やしびれ、言語障害、視野の異常などがみられる場合は、緊急性が高いため、速やかに救急を受診してください。

まとめ

・高血圧は自覚症状が乏しいまま、動脈硬化を介して脳・心臓・腎臓などへの負担を蓄積する

・診断基準は診察室140/90mmHg以上。降圧目標はJSH2025で診察室130/80mmHg未満、家庭125/75mmHg未満に統一された

・高値血圧の段階では、リスクに応じて生活習慣の改善を強化する

・高血圧の多くは本態性だが、二次性高血圧や薬剤の影響の確認も重要

・NSAIDs、甘草含有製剤、交感神経刺激薬などは血圧に影響しうる

・降圧薬は自己判断で中止せず、家庭血圧の記録を診療に活かす

「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」薬物療法と生活習慣は、役割を分担して血圧を支える関係です。

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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト / 健康運動実践指導者)

Well Lab — well-lab-kitagawa.net

【参考資料】

・日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」

https://www.jpnsh.jp/

・日本高血圧学会「JSH2025」成果報告(国立保健医療科学院掲載資料)

https://c2h.niph.go.jp/eecg/assets/reiwa_7/pdf/05_JPNSH_report.pdf

・平和伸仁「ガイドライン2025の変更ポイントと要点」診断と治療 2026年5月号

https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.34433/dt.0000001805

・日本腎臓学会「慢性腎臓病(CKD)患者の血圧管理に関するステートメント」(2026年6月25日)

https://cdn.jsn.or.jp/data/ckd_ketsuatsukanri_statement_20260625.pdf

・京都府乙訓保健所「乙訓救急フェア2025 アンケート回答」(診断基準・降圧目標の整理)

https://www.pref.kyoto.jp/y-ho-oto/kikaku/documents/2025kaitou.pdf

・厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」「日本人の食事摂取基準(2025年版)」

・厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」

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