はじめに
「運動しなければと思っているけど、忙しくてなかなか」「ジムに行かないと意味がないの?」。運動の必要性はわかっていても、実践につながらないという方は多くいます。
第2回は「運動と生活習慣病」の関係を整理します。「運動=体重を落とすもの」という狭い捉え方ではなく、体全体への影響を正しく理解することがこの回の目的です。
運動は、生活習慣病とどう関係する?
身体活動量が少ないことは、高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満・心血管疾患・一部のがんなど、多くの疾患のリスクと関連することが示されています。一方で適切な身体活動は、これらのリスクを下げる方向に働くことが多くの研究で示されています。
ただし「運動すれば病気にならない」という単純な保証はありません。遺伝・体質・年齢・既往歴など、他の要因も生活習慣病の発症に深く関与しています。運動は生活習慣病の予防・改善に関わる重要な要因の一つですが、唯一の解決策ではありません。
まず「身体活動」と「運動」の違いを整理します。身体活動とは安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する、骨格筋の収縮を伴うすべての活動を指します。運動はその中でも、体力の維持・向上を目的として計画的・継続的に行われるものです。通勤での歩行・階段の上り下り・家事なども身体活動に含まれます。
なぜ関係するのか
体を動かすことで、体の中でさまざまな変化が起きます。
血糖値・インスリン感受性への影響
筋肉を動かすとブドウ糖がエネルギーとして消費され、血糖値が下がる方向に働きます。また継続的な運動習慣は、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)の改善と関連することが示されています。
血圧への影響
有酸素運動は血管の柔軟性を高め、血圧を下げる方向に働くことが研究で示されています。ただし運動中は一時的に血圧が上昇するため、高血圧がある方は強度や種類に注意が必要な場合があります。
脂質への影響
有酸素運動はHDLコレステロール(善玉)の上昇・中性脂肪の低下と関連することが示されています。
体重・体組成への影響
身体活動はエネルギー消費量を増やし、体重管理に関連します。ただし運動だけで大幅な体重減少を期待することは難しく、食事との組み合わせが重要です。
筋肉量・骨密度への影響
筋力トレーニングは筋肉量の維持・増加と関連します。また荷重運動(体重を支える運動)は骨密度の維持に関与します。これはフレイル・サルコペニア・骨粗しょう症の予防とも深くつながっています。
精神的健康への影響
定期的な身体活動は、うつ症状・不安の軽減との関連が研究で示されています。
ガイドラインではどう考えられているか
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(2024年1月公表)では、以下の方向性が示されています。
成人への推奨
強度が3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上行うことが目安とされており、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上に相当)行うことが示されています。また筋力トレーニングを週2〜3日行うことが推奨されています。
高齢者への推奨
強度を問わず、身体活動を週10メッツ・時以上行うことが目安とされています。また転倒予防の観点からバランス運動を取り入れることも推奨されています。
座位行動(座りっぱなし)について
2023年版ガイドから「座位行動の時間が長くなりすぎないよう注意する」という考え方が明記されました。長時間座り続けることそのものが、運動習慣とは独立して健康リスクと関連することが示されています。
ただしこれらの数値は「全員が達成しなければならないノルマ」ではありません。現在の活動量が少ない方でも、今より少し多く動くことに意味があります。
どんな病気・健康状態と関係する?
運動(身体活動)と深く関わる病気・健康状態として以下が挙げられます。
高血圧
有酸素運動による血圧低下効果が複数の研究で示されています。高血圧の管理・治療においても、生活習慣の改善として運動が推奨されています。
2型糖尿病
血糖値の改善・インスリン抵抗性の低下との関連が示されています。糖尿病の予防・管理においても運動は重要な要素です。
脂質異常症
HDLコレステロールの上昇・中性脂肪の低下との関連が示されています。
肥満・メタボリックシンドローム
エネルギー消費量の増加・内臓脂肪の減少との関連があります。
心血管疾患
身体活動量が多いほど心血管疾患リスクが低い傾向が示されています。
骨粗しょう症・サルコペニア・フレイル
骨密度・筋肉量の維持を通じて、これらの予防に関与します。
よくある誤解
❌「激しい運動をしなければ、健康への効果はない」
↓
✅ 軽い強度の身体活動でも、健康との関連が示されています
「ジムでしっかり運動しなければ効果がない」という誤解があります。しかし研究では、ウォーキングなど比較的軽い強度の活動でも、健康との関連が示されています。また「座りっぱなしの時間を減らすこと」自体にも意味があることが示されており、まず日常の活動量を振り返ることが出発点になります。完璧な運動プログラムを目指すより、今より少し多く動く習慣を作ることの方が、長期的には価値があります。
薬剤師からのポイント
服薬中の薬によっては、運動時に注意が必要なケースがあります。
糖尿病治療薬(インスリン・一部の経口血糖降下薬)を使用している方は、運動による低血糖に注意が必要です。特に空腹時の激しい運動は低血糖リスクを高めることがあります。
降圧薬を服用している方は、運動後の血圧低下・立ちくらみ・めまいに注意が必要な場合があります。特に高齢の方では転倒リスクにつながることがあります。
スタチン系薬剤(コレステロールを下げる薬)を服用している方は、まれに筋肉への影響(筋肉痛・筋力低下)が報告されています。運動中に筋肉の異常な痛みや脱力感がある場合は、処方医に相談した上で判断することが大切です。
また高血圧・心疾患・糖尿病の合併症(増殖性網膜症・自律神経障害など)がある方は、運動の種類・強度・頻度について処方医に確認した上で取り組むことをお勧めします。「運動が体に良い」ということと「誰でも同じように運動してよい」は別の話です。
今日のまとめ
– 身体活動量が少ないことは、高血圧・糖尿病・脂質異常症など多くの生活習慣病リスクと関連している
– 有酸素運動・筋力トレーニング・日常の身体活動はそれぞれ異なる形で健康に関与する
– 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では成人に1日8,000歩以上・筋トレ週2〜3日が目安として示されている
– 長時間座り続けること自体も、独立した健康リスクと関連することが示されている
– 激しい運動でなくても、日常の活動量を増やすことに意味がある
– 服薬中の薬によっては運動時の低血糖・血圧変動などに注意が必要
すべてを一度に変える必要はありません。まずは自分の1日の活動量を振り返り、できることから考えてみてください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」
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