はじめに
「体重が増えてきたけど、元気だから大丈夫かな」「痩せていれば健康なの?」。体重と健康の関係は、数字だけで判断できるほど単純ではありません。
第4回は「体重・肥満と生活習慣病」の関係を整理します。「太っている=不健康」「痩せている=健康」という単純な捉え方を見直すことが、この回の目的です。
体重・肥満は、生活習慣病とどう関係する?
体重・肥満は、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・脂肪肝・心血管疾患など、多くの生活習慣病と深く関連しています。ただし「太っているから必ず生活習慣病になる」「痩せれば病気にならない」という単純な保証はありません。
体重や肥満が健康に影響するのは「体重の数値そのもの」よりも、「脂肪がどこに・どれだけ蓄積しているか」という点が重要です。この視点が、体重と健康を正しく理解する出発点です。
また体重は食事・運動・遺伝・体質・加齢・ホルモンバランス・ストレス・服薬など多くの要因の影響を受けます。「食べすぎ・運動不足だけが原因」という単純化も正確ではありません。
なぜ関係するのか
内臓脂肪が蓄積すると、脂肪細胞からさまざまな生理活性物質(アディポカイン)が分泌されます。この中には、インスリン抵抗性を高める物質・血圧を上昇させる物質・炎症を促進する物質が含まれています。これが、内臓脂肪型肥満が血糖値・血圧・脂質の異常と深く関連する主な理由です。
一方で、皮膚の下につく皮下脂肪は、内臓脂肪と比べて代謝への影響が異なることが知られています。同じ体重・同じBMIでも、脂肪がどこに蓄積しているかによって健康リスクが異なります。腹囲の測定が重要視される理由がここにあります。
また体重が少なすぎる(低体重)状態も、筋肉量の低下・骨密度の低下・免疫機能への影響・フレイルのリスクと関連することが示されています。「痩せていれば安全」という考え方も正確ではありません。
ガイドラインではどう考えられているか
日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」では、以下の考え方が示されています。
肥満・肥満症の定義
BMI25以上を「肥満」と判定します。日本人は欧米人と比べてBMIが低い段階から内臓脂肪の蓄積や代謝異常が現れやすいという疫学的知見があり、WHO基準(BMI30以上)より低い日本独自の基準が設定されています。
「肥満症」は肥満に加えて健康障害を合併している・または合併が予測される場合に定義されます。肥満症に関連する健康障害として以下の11項目が挙げられています。
耐糖能障害・脂質異常症・高血圧・高尿酸血症・痛風・冠動脈疾患・脳梗塞・非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)・月経異常・女性不妊・閉塞性睡眠時無呼吸症候群・運動器疾患・肥満関連腎臓病。
内臓脂肪型肥満とメタボリックシンドローム
へその高さでの腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上の場合が内臓脂肪型肥満の目安とされています。これに高血圧・脂質異常・高血糖のうち2つ以上が重なった状態をメタボリックシンドロームと呼び、心血管疾患リスクが高まることが知られています。
減量の目標について
肥満症(BMI25〜35未満)の初期減量目標は「3〜6ヶ月で現体重の3%以上」とされています。大幅な減量より、少しの減量でも血圧・血糖・脂質などの健康障害の改善が期待できることが示されており、「まず少し減らす」ことに意味があります。
どんな病気・健康状態と関係する?
体重・肥満と深く関わる病気・健康状態として以下が挙げられます。
高血圧・2型糖尿病・脂質異常症
内臓脂肪から分泌される生理活性物質を介して、これらの疾患との関連が深いです。
高尿酸血症・痛風
肥満による尿酸産生の増加・排泄の低下との関連が知られています。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD・NASH)
内臓脂肪・中性脂肪の肝臓への蓄積と関連します。
心筋梗塞・脳梗塞
動脈硬化の促進を介した関連があります。
睡眠時無呼吸症候群
肥満による気道周囲の脂肪増加が気道を狭め、睡眠中の呼吸障害と関連します。
サルコペニア・骨粗しょう症・フレイル
低体重・筋肉量の低下との関連が知られています。
よくある誤解
❌「BMIが正常範囲なら、肥満の心配はない」
↓
✅ BMIが正常でも内臓脂肪が多い「隠れ肥満」では、生活習慣病リスクが高まることがあります
BMIは体重と身長から算出するため、筋肉量が少なく脂肪が多い方ではBMIが正常でも内臓脂肪が蓄積していることがあります。逆に筋肉量が多い方はBMIが高めに出ることもあります。BMIと腹囲を合わせて確認することが、より正確な評価につながります。健康診断でBMIと腹囲の両方をチェックすることの意味がここにあります。
薬剤師からのポイント
体重増加の背景に、服薬中の薬の影響がある場合があります。抗精神病薬・抗うつ薬・ステロイド薬・一部の糖尿病治療薬(スルホニルウレア薬・インスリンなど)・一部の降圧薬は体重増加と関連することが知られています。服薬を始めてから体重が増えてきたと感じる場合は、処方医に相談することが大切です。
近年、GLP-1受容体作動薬などの肥満症治療薬の開発が進んでいます。これらは医師の診断・処方のもとで使用されるものであり、適応がある方に対して医学的に使用されるものです。自己判断での使用や、美容目的での安易な使用は適切ではありません。
また極端な食事制限による急激な体重減少は、筋肉量の低下・骨密度の低下・栄養不足を招くことがあります。体重を減らすこと自体が目的ではなく、健康障害を改善・予防することが目標です。無理のない範囲での継続可能な生活習慣の見直しが重要です。
今日のまとめ
– 肥満と生活習慣病の関係は「体重の数値」よりも「脂肪がどこに蓄積しているか」が重要
– 日本ではBMI25以上が肥満の目安。日本人はBMIが低い段階から代謝異常が現れやすい
– BMIが正常でも腹囲が大きい「隠れ肥満」では生活習慣病リスクが高まる場合がある
– 低体重も筋肉量低下・骨密度低下・フレイルリスクと関連する。「痩せていれば安全」ではない
– 少しの減量でも健康障害の改善が期待できる。大幅な減量を急ぐ必要はない
– 服薬中の薬が体重増加に影響することがある。気になる場合は処方医に相談を
すべてを一度に変える必要はありません。まずは自分の体重・腹囲の状態を知ることから始めてみてください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
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