はじめに
「お酒は適度に飲めば体に良いんでしょ?」「毎日少し飲むくらいなら問題ないよね?」。飲酒と健康の関係は、情報が複雑に交錯しており、何が正しいのかわかりにくいという方が多くいます。
第5回は「飲酒と生活習慣病」の関係を整理します。「飲酒=悪」という単純化でもなく、「適度ならOK」という楽観でもなく、正しい情報を知ることがこの回の目的です。
飲酒は、生活習慣病とどう関係する?
アルコールは、高血圧・脂質異常症(特に中性脂肪)・肝疾患・高尿酸血症・一部のがん・睡眠の質の低下など、多くの健康問題と関連することが示されています。
2024年2月、厚生労働省は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を初めて公表しました。このガイドラインが示した重要なメッセージは「飲酒量は少ないほど、飲酒による健康リスクは少なくなる」という点です。
ただし飲酒の影響は飲む量・飲み方・体質・年齢・性別・既往歴・服薬の有無によって大きく異なります。一律に「悪い」と断定するのではなく、自分の状況に合わせて考えることが重要です。
なぜ関係するのか
アルコールは体内でアセトアルデヒドという物質に代謝されます。このアセトアルデヒドが、肝臓・血管・消化器など多くの臓器に影響を与えます。
血圧への影響
飲酒量が増えるほど血圧が上昇しやすくなることが示されており、大量飲酒は高血圧の重要なリスク因子の一つです。少量の飲酒でも血圧への影響が完全にないとは言えません。
中性脂肪への影響
アルコールは肝臓での中性脂肪合成を促進します。糖質の過剰摂取と並んで、中性脂肪高値の主な原因の一つです。
肝臓への影響
アルコール性脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変という進行があります。長期の過剰飲酒が肝臓に与えるダメージは深刻であり、肝がんのリスクとも関連します。
尿酸値への影響
アルコールは尿酸の産生を増やし、腎臓からの排泄を低下させます。痛風発作の誘因になることがあり、高尿酸血症の管理においても飲酒習慣の見直しが重要です。
睡眠への影響
アルコールは寝つきを良くする場合がありますが、睡眠後半の眠りを浅くし、睡眠全体の質を低下させることが示されています。「お酒を飲まないと眠れない」という状態は、睡眠と健康の両面から見直すことが大切です。
がんとの関連
口腔がん・咽頭がん・食道がん・大腸がん・乳がんなど、一部のがんとの関連が示されています。アセトアルデヒドのDNAへの影響が背景にあると考えられています。
ガイドラインではどう考えられているか
厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月公表)では、以下の考え方が示されています。
純アルコール量での把握
飲酒量を「純アルコール量(g)」で把握することが推奨されています。純アルコール量は「飲み物の量(mL)×アルコール度数÷100×0.8」で計算できます。
主な飲み物の目安として、ビール(5%)500mLが約20g・日本酒(15%)1合(180mL)が約22g・ワイン(12%)グラス1杯(150mL)が約14g・チューハイ(7%)350mLが約20gです。
生活習慣病リスクを高める飲酒量
1日あたりの純アルコール量が男性40g以上・女性20g以上の飲酒は、生活習慣病のリスクを高める量として示されています。ただしこれは「この量まで飲んでいい」という許容量ではありません。飲酒量は少ないほど健康リスクが少ないとされています。
特に注意が必要な方
以下の方は、少量の飲酒でも健康リスクが高まりやすいとされています。女性(男性より体内の水分量が少なく血中アルコール濃度が上がりやすい)・高齢者(体内の水分量が少なく同量でも影響が大きくなりやすい)・アルコールの代謝が遅い体質の方(飲酒後に顔が赤くなりやすい方)・服薬中の方。
どんな病気・健康状態と関係する?
飲酒と深く関わる病気・健康状態として以下が挙げられます。
高血圧
飲酒量と血圧の関連は多くの研究で示されており、高血圧の管理において飲酒習慣の見直しが推奨されています。
中性脂肪高値・脂質異常症
アルコールによる中性脂肪の上昇は、HDLコレステロールへの影響とも関連します。
脂肪肝・アルコール性肝疾患
長期の過剰飲酒による肝臓への影響は深刻です。肝硬変・肝がんへの進行リスクがあります。
高尿酸血症・痛風
尿酸産生の増加・排泄低下を介して、痛風発作のリスクと関連します。
一部のがん
口腔・咽頭・食道・大腸・乳がんなどとの関連が研究で示されています。
睡眠障害
睡眠の質の低下を通じて、生活習慣病リスクとも間接的に関連します。
アルコール依存症
継続的な過剰飲酒によって依存が形成されることがあります。飲酒量のコントロールが難しいと感じる場合は、専門医への相談が重要です。
よくある誤解
❌「毎日少し飲む程度なら、健康に良い影響がある」
↓
✅ 「少量の飲酒が健康に良い」という根拠は、現時点では確立されていません
かつて「少量の飲酒は心血管疾患を予防する」という研究が広まりましたが、その後の研究でその解釈には方法論上の問題があることが指摘されています。現在の厚生労働省ガイドラインでは「飲酒量は少ないほど健康リスクが少なくなる」という考え方が採用されており、「飲まないよりも少し飲んだ方が体に良い」という考え方は、現時点では科学的根拠が十分ではありません。
薬剤師からのポイント
服薬中の薬とアルコールの組み合わせには注意が必要です。
睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など)とアルコールは、中枢神経抑制作用が重なり、過度な眠気・呼吸抑制のリスクがあります。血圧の薬・糖尿病治療薬とアルコールの組み合わせも、血圧の過度な低下・低血糖のリスクがある場合があります。解熱鎮痛薬(特にアセトアミノフェンを含むもの)と大量飲酒の組み合わせは肝臓への負担を増大させることがあります。
高尿酸血症・高血圧・脂肪肝・睡眠の問題で治療・管理中の方は、飲酒習慣が検査値・症状に直接影響することがあります。「薬を飲んでいるからお酒は別の話」ではなく、生活習慣として飲酒も含めて総合的に考えることが重要です。
服薬中の方は飲酒との相互作用について処方医に確認しておくことをお勧めします。
今日のまとめ
– 飲酒は高血圧・中性脂肪・肝疾患・高尿酸血症・がん・睡眠の質など、多くの健康状態と関連する
– 2024年の厚生労働省ガイドラインでは「飲酒量は少ないほど健康リスクが少ない」と示されている
– 生活習慣病リスクを高める目安は1日純アルコール量で男性40g以上・女性20g以上
– 「少量の飲酒が健康に良い」という根拠は現時点では確立されていない
– 女性・高齢者・代謝が遅い体質の方はより少量でも影響が大きくなりやすい
– 服薬中の方は飲酒と薬の相互作用に注意。処方医に確認しておくことが大切
すべてを一度に変える必要はありません。まずは自分の飲酒量を純アルコール量で把握することから始めてみてください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」
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