はじめに
「睡眠と生活習慣病って、関係あるの?」と思う方もいるかもしれません。食事や運動と比べると、睡眠が健康に与える影響はあまり意識されにくい印象があります。
しかし睡眠不足や睡眠の質の低下は、高血圧・糖尿病・肥満・心血管疾患など多くの生活習慣病と深く関連することが研究で示されています。第3回は「睡眠と生活習慣病」の関係を整理します。
睡眠は、生活習慣病とどう関係する?
日常的に質(睡眠休養感)・量(睡眠時間)ともに十分な睡眠を確保することで、心身の健康を保ち、生活の質を高めることは非常に重要です。睡眠不足や睡眠の問題が慢性化すると、さまざまな疾患の発症リスクの上昇・悪化に関連することが知られています。
ただし「睡眠を十分に取れば生活習慣病にならない」という単純な保証はありません。睡眠は食事・運動・ストレス・遺伝・体質など多くの要因の中の一つです。それでも、睡眠が体の状態に与える影響は無視できないほど大きいことが、多くの研究で明らかになっています。このシリーズが扱う食事・運動と並んで、睡眠も生活習慣の重要な柱の一つです。
なぜ関係するのか
睡眠中、体はさまざまな重要な働きをしています。
血糖値・インスリン感受性への影響
睡眠不足が続くと、インスリン抵抗性が高まる方向に働くことが示されています。血糖をうまく処理できなくなることで、2型糖尿病のリスクと関連することが知られています。
血圧への影響
睡眠中は通常、血圧が低下します(夜間血圧降下)。睡眠不足や睡眠の質の低下によって、この夜間の血圧低下が起きにくくなり、高血圧のリスクと関連することが示されています。
食欲・体重への影響
睡眠不足は食欲を増進させるホルモン(グレリン)の増加と、食欲を抑えるホルモン(レプチン)の減少と関連することが示されています。これが過食・体重増加につながりやすくなる背景の一つです。
炎症・免疫への影響
睡眠不足は体内の炎症反応と関連することが示されており、動脈硬化・心血管疾患リスクとの関係が研究されています。
精神的健康への影響
睡眠不足は気分の低下・意欲の減少・ストレス耐性の低下と関連します。精神的な不調は食事・運動など生活習慣全体の乱れにもつながりやすくなります。
成長ホルモン・体の修復への影響
深いノンレム睡眠の時間帯に成長ホルモンが分泌され、体の修復・筋肉の合成が行われます。睡眠の質の低下は、体の回復機能に影響する可能性があります。
ガイドラインではどう考えられているか
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024年公表)では、以下の方向性が示されています。
成人の睡眠時間について
「6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」という推奨事項が示されています。ただし必要な睡眠時間には個人差があり、この目安はあくまでも参考値です。「6時間眠れていれば十分」という意味ではなく、日中の眠気・疲労感・睡眠休養感(眠れた感覚)も合わせて自分の睡眠を評価することが重要とされています。
日本で1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は男性37.0%・女性39.9%であり、40〜50歳代では半数近くが6時間未満という状況が示されており、睡眠不足は日本人にとって重要な健康課題です。
「寝だめ」について
休日に寝だめをすることで社会的時差ボケが発生し、肥満や糖尿病・生活習慣病・心血管系疾患などのリスクが高まることが示されています。平日の睡眠不足を休日に補おうとする習慣は、体内時計のリズムを乱す可能性があるとされています。
睡眠の質について
睡眠に関する取組を進める上では、生活習慣や睡眠環境等を見直し、「睡眠時間」と「睡眠休養感」のいずれも確保することが重要とされています。時間は取れていても疲れが取れない・日中眠い・気力が湧かないという状態は、睡眠の質の問題として見直すことが大切です。
どんな病気・健康状態と関係する?
睡眠と深く関わる病気・健康状態として以下が挙げられます。
高血圧
夜間の血圧低下が起きにくくなることとの関連が示されています。睡眠と血圧は密接につながっています。
2型糖尿病
インスリン抵抗性の増大・食欲ホルモンへの影響を介して、糖尿病のリスクと関連することが示されています。
肥満・メタボリックシンドローム
食欲増進・エネルギー消費低下を介して、体重増加・肥満と関連します。
心血管疾患
炎症・血圧・血糖への複合的な影響を通じて、心血管疾患リスクと関連することが知られています。
うつ・不安障害
睡眠と精神的健康は双方向に影響し合います。睡眠の問題が精神的不調を悪化させ、逆に精神的不調が睡眠を乱すという悪循環が生じやすくなります。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に呼吸が止まる・浅くなることで睡眠の質が低下します。高血圧・糖尿病・心血管疾患のリスクと関連することが知られており、肥満との関係も深い疾患です。
よくある誤解
❌「睡眠は短くても、慣れれば問題ない」
↓
✅ 睡眠不足に「慣れた感覚」があっても、体への影響は続いている可能性があります
「短い睡眠でも慣れてきた」と感じる方がいますが、研究では睡眠不足への主観的な慣れと、客観的な認知機能・体の機能低下は必ずしも一致しないことが示されています。「眠くないから大丈夫」という感覚が、実際の体の状態を正確に反映していない可能性があります。また「寝だめで補える」という考え方も、体内時計のリズムへの影響を踏まえると単純な解決策にはならないことが示されています。
薬剤師からのポイント
睡眠に影響を与える薬・物質について、薬剤師として伝えたいことがあります。
カフェイン(コーヒー・緑茶・エナジードリンクなど)は睡眠の質に影響を与えることが知られています。摂取するタイミングや量が睡眠に影響することがあります。午後の遅い時間以降の摂取には注意が必要な場合があります。
アルコールは「眠れる」と感じさせることがありますが、睡眠後半で眠りが浅くなりやすく、睡眠全体の質を低下させることが示されています。「寝つきが良くなる」と感じても、睡眠の質の改善とは別の話です。
一部の薬(ステロイド薬・一部の降圧薬・抗うつ薬・β遮断薬など)が睡眠に影響することがあります。服薬を始めてから眠れなくなった・眠りが浅くなったと感じる場合は、処方医に相談することをお勧めします。
また睡眠薬・睡眠補助薬を使用している方は、自己判断での急な中止は避けてください。慢性的な睡眠の問題が続く場合は、生活習慣の見直しとともに医療機関への相談を検討することが大切です。
今日のまとめ
– 睡眠不足・睡眠の質の低下は、高血圧・糖尿病・肥満・心血管疾患などのリスクと関連している
– 成人の睡眠時間の目安は6時間以上とされているが、個人差があり「睡眠休養感」も重要な指標
– 「寝だめ」は体内時計のリズムを乱す可能性があり、平日の睡眠不足の解決策にはならない
– 睡眠不足への「慣れた感覚」が、体への影響がないことを意味するわけではない
– アルコール・カフェイン・一部の薬が睡眠に影響することがある。気になる場合は処方医に相談を
– 慢性的な睡眠の問題が続く場合は医療機関への相談を検討する
すべてを一度に変える必要はありません。まずは自分の睡眠の状態を振り返り、できることから考えてみてください。
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北川 俊一(薬剤師 / スポーツファーマシスト)
Well Lab — well-lab-kitagawa.net
「薬を否定しない。でも薬だけに頼らない。」
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